先日、「福岡市の公式観光サイトがぐるなびと提携」というニュース記事を書いた。別にスクープでもなんでもない(恥ずかしながら、ニュース記事の日付はプレスリリースの翌日である)。「年間十大ニュース」に選ばれるような大ニュースでもないだろう。しかし、自治体サイトのあり方という観点では、この福岡市の取り組みはとても興味深い取り組みだと思う。自治体サイトにはあまり例のない「匿名ユーザーの評価」を取り入れたからだ。

 福岡市の公式観光案内サイト「よかなび」では、大手飲食店情報サイト「ぐるなび」の情報を提供している。ぐるなびが提供する店舗情報をよかなびで表示するわけだが、各店舗の紹介ページでユーザーは「口コミ情報」の投稿ができる。投稿されたコメントは公開前に確認し、原則的にネガティブなコメントは出さないことになっているという。だから、辛口な評価コメントも見たいユーザーにはやや物足りないかもしれない。だとしても、インターネット全体に開かれた場においてCGM(Consumer Generated Media:消費者が情報を発信して生成するメディア)の仕組みを活用して「匿名ユーザーの評価」を募る「よかなび」は、自治体サイトとしては先進的な取り組みといっていいだろう。

 いわゆるWeb2.0的な取り組みということであるなら、既に様々な自治体で行われている。地域SNS(熊本県八代市の「ごろっとやっちろ」を嚆矢に全国に波及)、ブログポータル(例えば和歌山県北山村の「村ぶろ」)、市長記者会見の動画のYouTubeへの配信(例えば福島県会津若松市)、Google Mapsの活用(例えば埼玉県草加市)など、数え上げればきりがない。RSS配信は上場企業よりも普及が進んでいるという調査結果もある(関連記事)。

 ただ、広く「匿名ユーザーの評価」を受け入れるタイプのCGMだけは、自治体サイトでは広まっていないようである。その理由の一つに、特定の企業・団体に利することになる「評価」の情報発信を自治体が嫌うことが挙げられるだろう。もう一つ言えば、「匿名」情報の扱いの面倒さもあるのかもしれない。かつて相次いで設置された自治体の電子掲示板は「誹謗中傷等による場の『荒れ』が、行政担当者の負担となり、利用者離れを引き起こしたこと」(庄司昌彦「盛り上がらない地方自治体の電子掲示板」)などから下火になっていった。代わって注目されているのが地域SNSだ。会員制で場が荒れにくく参加者・運営者双方にとって、より安心な仕組みであることが評価されている。

 とはいえ、特に観光や物産など地域振興のコンテンツの場合、公平・平等を原則とする自治体といえども「評価」に踏み込まざるを得ないのではないか。例えば、X市名物の「xx麺」があったとする。ユーザーはもはや「xx麺協会加盟店一覧」といった情報だけでは物足りないはずだ。「xx麺」はどの店が特においしいのかを知ることができないからである。しかも、そうした情報(どの店の「xx麺」が特においしいか)を手に入れるために、ネットユーザーは、グルメサイトの星印の数や、だれかが書いたブログ(必ずしも書き手の素性が明らかになっているとは限らない)といった、「匿名」の情報をごく当たり前に参照している。

 観光・物産における自治体間競争を勝ち抜くには、ユーザーニーズにかなった情報発信が必要となるだろう。であるなら、オープンな場でのCGMの活用は自治体にとっても今後の検討課題の一つとなるはずだ。福岡市の「よかなび」担当者に、口コミ情報をユーザーが書き込める仕様について行政内部での異論はなかったのかを聞いたところ、「ユーザーは口コミや個人の評価情報を求めている。星印で評価をつけるとなると(自治体での扱いは)難しいかもしれないが、観光の集客面を考えると、ユーザーが便利に使えるような最低限の取り組みはしなくてはならない。これからは情報を管理するのではなく活用する方向で考える必要があるのではないか」という答えが返ってきた。

市民の意見は、別の市民にとっての情報でもあるはず

 CGMの仕組みは、観光・物産に限らず、自治体のサービスそのものへの評価に活用してもよいのではないだろうか。以前私は、「パブリックコメント募集にblogの活用を」というコラムを執筆した。パブリックコメントに掛ける情報を、項目ごとにブログ形式で公開して、それぞれにコメントとトラックバックを受け付けてはどうかという提案だ。パブリックコメントに限らず、市のサイトの各ページで、こうした形で「匿名ユーザーの評価」を受け付けてみてもよいのではないだろうか。

 最近では、サイトから「市民の声」を募集している自治体も多い。だが、どんな声が寄せられたのか、サイトを見ても分からない場合も多い。各ページの下部に簡単なアンケートが付いている自治体サイトも目につくようになってきた(下画像)。でも、ほとんどの自治体サイトでは、ユーザーはこうしたアンケートの結果をその場では見ることができない。

アンケート
* 「2007/2008自治体サイト・ユーザビリティランキング」で第1位だった浜松市のサイトより

 ページの情報が「役に立った」という意見が何%くらいあったのか、その場ですぐに見ることができれば、サイトを訪れたユーザーの素朴な好奇心を満たしてくれる。そうしたことが市政に関心を持ってくれるきっかけとなるかもしれない。そこまで言うのは大げさだとしても、アンケートの結果を見に行くことでサイトの滞在時間が長くなるだろうから、単純に言えば、それだけユーザー(市民)と市とのコミュニケーションが深まったといえる(各ページにコメントやトラックバックの機能があれば、さらに深まったかもしれない)。

 匿名の意見を特別に重視すべきだとは全く思わないし、中には勉強不足だったり一方的だったり必要以上に自治体を敵視する意見もあるだろう。だとしても、市民の声は別の市民にとっての情報となる。そうした前提のもとで、自治体サイトのあり方を考えてみてもよいのではないだろうか。