昨年から今年にかけ,Linuxがちらほらとメディアをにぎわせている。海外ではニューヨークタイムズが2007年10月4日のオンライン記事で「The Next Leap for Linux」(Linuxのための次の飛躍)というタイトルでデスクトップOSとしてのLinuxを取り上げた。日本でも2007年11月に週刊アスキーがLinuxを特集している。ブームは3年以上前に終わったはずだが,いまさらLinuxを取り上げているのはなぜだろうか。

 メディアに登場しているのは,いずれも「Ubuntu(ウブントゥ)」と呼ぶ,Linuxディストリビューションだ。いま,数あるLinuxディストリビューションの中でも,最も利用者数が伸びているものと言っていい。実際,日経Linuxの読者でもその傾向が顕著で,Ubuntuの利用者が2,3割を占めている。

 実は,Ubuntuは過去のLinuxディストリビューションとは一線を画すところがある。それは,“ユーザー志向”のLinuxであることだ。これまでのLinuxディストリビューションは,技術者の趣味で作られていたといっても過言ではない。しかし,Ubuntuは,ユーザーに使いやすくすることを念頭に作られている。Ubuntuの意味は,南アフリカ共和国のズールー族などの言葉で「他者への思いやり」だ。一般製品では当たり前のことだが,Linuxに限っていえば画期的といえる。

 では,どのようにユーザー志向になっているのか。

 分りやすいポイントを2つ挙げよう。1つは,1枚のCDからOSを起動できるようにしていること。ハード・ディスクなどの記憶装置が必要ない。最低386Mバイトのメモリーを搭載していれば,Ubuntuが備える主要な機能のほとんどが使える。初めてLinuxを試すユーザーは,とっつきやすいはずだ。普段使っているパソコンのドライブにメディアを挿入するだけでよい。

 もう1つは,Ubuntuを起動した1枚のCDから,簡単にハード・ディスクにインストールできるようにしていること。デスクトップ上のアイコンをクリックするだけで開始し,わずか7ステップの手順で20分もあれば済む。セキュリティ設定などの難しい項目はない。

 こうした点を評価してか,米Intel社が新たに投入するプロセッサのATOM用にも,UbuntuをベースにしたLinuxディストリビューションが開発された。2008年6月にも,ATOMが搭載された超低価格パソコン(ULCPCやNetbook)が,海外では登場する見込みだ。海外で爆発的な売れ行きを見せるULCPCに,Ubuntuのような著名なLinuxディストリビューションが搭載されれば,「Linuxブームの再燃」といっても過言ではなくなるだろう。

 しかし,日本だけは状況が異なる。ULCPCなどの低価格ノートPCではWindowsがメインである。また,一般的なPCでもLinuxをプリインストールしているのはソーソーやクレバリーなどのPC販売ベンダーのみで,大手のPC開発メーカーからは出荷されていない。日本の大手ベンダーは,マイクロソフトとの関わり合いが強いだけに,なかなかLinuxのプリインストールは出ないかもしれない。しかし,Ubuntuの良さをユーザーが認めれば,動かざるを得ないのではないだろうか。まずは,ULCPCの今後の動向に注目したい。

 なお,Ubuntuを試したいのであれば,ムック「楽しくはじめるLinux」をぜひご購入いただきたい。同書には,最新版のUbuntu 8.04日本語版を収録している。