インターネット関連の「標準」といえば「RFC」だ。LANなら「IEEE802標準」,WANや電話なら「ITU勧告」などネットワークの標準はいくつかある。これら標準は,異なる機器同士がつながるようにするための“よりどころ”。我々も記事を書くときには,標準を調べることが多々ある。
ただし,標準に準拠しているからといってつながるとは限らない。例えば,SIPを使うIP電話で相互接続性が大きく問題になった。つながらないのは,標準の解釈が異なっていたり,ある機能を実現するときの方法が複数あったりしたためだ。また,「デファクト」となる機器や仕様がなかったのも一因と言われている(参考記事)。
つながるようにするには,「標準」にあたるだけでなく,先行して市場に出ている製品の仕様に合わせることも必要になる。例えばイーサネット機器の場合,「IEEE802.3の場合,相互接続を考えて標準化をしているため,つながらないことは少ない。ただし,ケース・バイ・ケースで接続性の試験をしたりする。現実的には,市場に先に出たものがデファクトの仕様になり,それにつながるようにする」(日立電線の瀬戸康一郎 情報システム事業部 ネットワーク開発部部長)。
標準に厳密すぎてつながらないことが…
瀬戸氏は「標準は,メーカーが異なる機器でもユーザーが安心して使えるようにするために重要」と言う。ところが現在,標準に厳密に準拠したために,逆につながらずにユーザーが困ってしまう事態が起こっている。いわゆる携帯電話のメール・アドレス問題である。
すでにいろいろなところでも取り上げられているが,事情はこうだ。NTTドコモとKDDIでは,メール・アドレスとして@より左側に「.」(ドット)が連続していたり,@の直前に「.」があるアドレスでも取得できるようにしている。ところがRFC2821とRFC2822を読むと,上記のようなアドレスは使わないことが望ましいとされている。
RFC準拠ではないメール・アドレスが問題になったのは,広く使われているマイクロソフトのメーラー「Outlook」やWebメール・サービス「MSN Hotmail」,「Exchange Server」などでそれらのメール・アドレスを受け付けなくなったからだ。Outlook2003の場合,2007年9月にリリースしたService Pack3でRFC準拠ではないアドレスの扱いが変更になっている。
NTTドコモは「RFC上,必須仕様と考えていない」ため,変更する予定はないという。一方,マイクロソフトは「RFCに準拠していないものに対する相互接続性は保証できないため,認めていない」との考え。
この問題について,メール技術に詳しい専門家に話を聞いてみた。
そもそもRFCは完璧なものではなく,決めていること自体に技術的な意味がないこともあるという。今回のメール・アドレスの「.」についても,技術的な意味はないらしい。「ほとんどの人はRFCを読まずに実装している。Outlookにしても,完全にRFCに準拠しているとは言えない部分がある。メーラーに実装するときは“送信の際はRFCに厳密に,受信の際は寛容に”という精神で使うべき」(インターネットイニシアティブ 技術研究所 主幹研究員の山本和彦氏)。山本氏はOutlookがRFCに準拠していない例として,日本語の添付ファイル名の符号化方法を挙げている(山本氏のブログへ)。
この問題では,「標準」という相互接続性を助けるためのものが逆に障壁となってしまった。IIJの山本氏は,「大切なのは,全員がRFCに従っているわけではないので,実装をよく調べて問題にならないようにすること」とアドバイスする。
エンドユーザーにとっては「標準かどうか」よりも「つながるかどうか」が問題だろう。個人的には,原因がわかっているのなら,つながるように歩み寄ってほしいのだが・・・。みなさんはどう思いますか?