写真1●広島国際大学の丁井雅美准教授のゼミに参加する学生さん
写真1●広島国際大学の丁井雅美准教授のゼミに参加する学生さん
[画像のクリックで拡大表示]
 
写真2●入力方法や入力ミスがどう発生するかなどをビデオで記録するような実験も行う
写真2●入力方法や入力ミスがどう発生するかなどをビデオで記録するような実験も行う
[画像のクリックで拡大表示]

 「僕,パソコンとか,スマートフォントとかが大好きなんです」――こんなことを言う学生が,たくさん集まっているものだとばかり思っていました。この期待は完全に裏切られ,「よろしくお願いします!」と私の目の前に現れた若者は,本当にごく普通の学生さん。髪の毛を茶色に染め,今流行の洋服を着ています。

 2008年の4月も終わろうとしていたある日,広島国際大学の丁井雅美准教授が主催するゼミにお邪魔しました。この「ごく普通の学生さん」が少しだけ一般の大学生と違うのは,その鞄の中に,いつもスマートフォンを忍ばせていること。丁井准教授が主催するゼミでは,ゼミ生8名すべてがウィルコムの「Advanced/W-ZERO3[es]」を持ち歩き,教育現場でのスマートフォンの有用性について研究しています(写真1,写真2)。ゼミでは,スマートフォン以外に携帯電話,「ニンテンドー DS」や「PSP」などを取り扱っています。

 ゼミの研究目的や成果などの詳細は,『日経パソコン』2008年5月26日号をご覧いただくとして,ここでは筆者が“今どき”の学生に実際に接し,そして少なからず驚いたことを記しておきます。

 取材に行った際,筆者はソフトバンクモバイルのスマートフォンをいくつか持っていきました。そこでまず驚いたのが,これらを見て発した彼らの言葉。例えば,「ボタン,光らないんですか?」とか,「このスマートフォン,テンキーはないんですか?」とか。携帯電話と比べれば,出てきてしかるべき感想なのかもしれませんが,筆者がスマートフォンを「ミニパソコン」ととらえていたからなのでしょうか,意外な感想に思えました。何といっても,日ごろ使っているパソコンのキーボードは,光らないですから…。

 彼らは,スマートフォンをコンピューターではなく,「携帯電話」と考えています。なので,使い勝手やインタフェースを比べるとき,パソコンとではなく携帯電話と比べてどうか,という話になるのです。何となくスマートフォンを「ミニパソコン」と思っていた筆者には,この感覚が新鮮でした(写真3)。

写真3●1人1台所有するスマートフォンを片手にディスカッション
写真3●1人1台所有するスマートフォンを片手にディスカッション
[画像のクリックで拡大表示]

 もう一つ驚いたのは,彼らの携帯電話の使い方。学生の多くは,1000文字程度の提出課題なら,苦もなく携帯電話で文字を入力するそうです。取材に協力してくれた11人中8人が「書いたことがあります」とのこと。「A4で1~2枚くらいの分量なら,空いている時間に携帯電話で書く」そうです(写真4)。携帯電話で書いて,それをパソコンに送って,Wordにコピペして,提出。「はい,一丁あがり」ということらしいのです。

図のタイトル
写真4●学生が実際にスマートフォンで作成したレポート。曰く「一応これで単位を取れましたが,かなり大変でした」
[画像のクリックで拡大表示]

 かといって,ちまたで言われているように,彼らが「携帯至上主義」かというとそうではありません。「そりゃ,長文はパソコンの方が楽ですよ」と,そんな当たり前のことは聞かないで下さいというような顔で答えが返ってきました。長文のレポートを携帯電話で作成することは,ほとんどないのだそうです。彼らの多くは,携帯電話の利用歴がパソコンのそれを上回っているのですが,実際に文章を打ってもらうとパソコンの方が携帯電話よりもはるかに高速でした。

スマートフォンの行く末を考えるうえで若い世代に注目したい

 話を聞くと,今回お会いした学生さんの多くが,日々の学業や生活において,携帯電話とパソコンの2種類の機器で十分と感じているようです。では,スマートフォンのような機器はどうなるのでしょうか。筆者が「ということは,スマートフォンが生き残る道はないのでしょうか?」と聞いたところ,学生の1人が「いやいや,そんなことはないですよ」と話してくれました。「携帯電話みたいに軽くて,携帯電話みたいにボタンが押しやすくて,Windows MobileとかじゃなくてWindows XPのようなOSが入ってればうれしい。そうしたら,携帯電話じゃなくてスマートフォンを選ぶかも」と。

 ただ一方で,ある女子学生は「使う必要性を感じません」とバッサリ。「パソコンにも,携帯電話にもなりきれてないから,使い道がありません。長文はパソコン,短文は携帯電話。これで十分」というのです。スマートフォンは,スマートフォンの「らしさ」を探すべきで,携帯電話やパソコンに「似たもの」ではダメということなのでしょう。

 もちろん,学生と社会人では生活スタイルも,モバイル端末の使い方も異なります。ただ,スマートフォンの行く末を考えるうえで,携帯電話や携帯ゲーム機の普及の一翼を担ってきた学生の意見を無視することはできません。2008年に入って,スマートフォンだけでなく,ウルトラモバイルパソコン(UMPC)やネットブックなど,小型のコンピューターが相次いで発売されました。これらの小型コンピューターが,どのような世界を開くのか,または一時のブームで終わるのかについて議論するためにも,若い世代の考え方や行動に今後も注目していきたいと考えています。