Android,iPhone,LiMo,Windows Mobile,Symbian・・・。現在,携帯電話の開発プラットフォームに注目が集まる中,ソフトバンクはさらに上位のレイヤーでのプラットフォーム戦争を仕掛けてきた。チャイナモバイル(中国移動),英ボーダフォンとともに,携帯電話に関する技術やサービスを開発する会社「Joint Innovation Lab(JIL)」を立ち上げ,携帯電話サービス・プラットフォーム標準の獲得に狙いを定めてきたのだ。

 JILの設立が発表されたのは4月22日のこと。発表資料には具体的な内容はほとんどなく,分かったのは「第1弾として携帯電話用ガジェット実行環境を用意する」ということだけだった(関連記事1)。しかし,5月8日に開かれたソフトバンクの2008年3月期の席上で,この輪郭が見え始めた。同社の孫正義社長がJILの意義を説明したからだ。孫社長のプレゼンテーションの後に行われた記者やアナリストとの質疑応答の内容と合わせると次のような事実が明らかになった(関連記事2)。

(1)合計7億人に上る3社のユーザーの端末にJILで開発/規定した技術やサービス仕様を搭載していくこと。

(2)JILでは音楽/マンガ/映画/アプリケーションなどの配信,各種サービス提供に必要なファイル・フォーマットやプロトコルを策定すること。

(3)JILの仕様にはセキュリティ/通信制御/課金などの仕組みを含むこと。

(4)OSやミドルウエアなどのプラットフォームを問わずに動作する技術を規定すること。

(5)3社共同のシステムを用意し,ここで少額課金によるコンテンツ/サービス販売を実施すること。

 以上のような構想に沿って出来上がるサービス像を考えてみると,iモードに代表される日本型の携帯電話サービスそのものだと分かる。つまり,3社で作る標準とネットサービス・プラットフォームによって日本型携帯サービス・モデルを世界に出荷するというシナリオを描いているわけだ。

 既に,日本では映像,マンガ,ゲームなどを少額で販売するモデルが出来上がっている。こうしたビジネスが成り立つのは,携帯電話事業者が携帯電話メーカーに対して,必要なコーデックやアプリケーション実行環境を備えさせる一方で,携帯電話事業者がネットワーク側で少額課金のための基盤を整えているからである。

 日本以外の世界では,携帯電話メーカーの力が強く,通信事業者が主導するサービスをうまく運営できていない。孫社長が言うように「7億人のユーザーを背景にすれば,メーカーも,コンテンツ・プロバイダも,JILで決めた仕様に沿って作ってくる」というシナリオが描ける。うまくすれば,携帯メーカーと通信事業者の立場を逆転できるかもしれない。歴史が語っているように,デファクト標準の力は強い。JILのもくろみが成功し,世界中のメーカーやコンテンツ事業者がJILの決定事項に準拠するようになれば,携帯電話の世界の標準作りはJILが担うことになる。

他社の対抗策はiモード,EZwebの徹底的なオープン化

 強者連合によって世界標準作りを狙うソフトバンクモバイルに対して,気になるのがNTTドコモとKDDIの動きだ。かつてNTTドコモが資本の力でiモードの国際展開を進めた時期はあったものの,失敗に終わり,現在のところ,携帯電話サービスの海外進出については停滞状態だ。とはいえ,ソフトバンクモバイルに世界標準を握られ,それを将来的に採用しなくてはならない状況になるのは,両社としても避けたいところだろう。

 ではどうすればよいか。両社がとるべき対抗策は一つしかないと考える。現在各社が独自に抱える携帯電話サービスを,外部に徹底的に公開することである。すなわち,海外の携帯電話事業者に,iモードやEZwebで培った技術やノウハウを無償で提供し,JILが台頭してくる前にデファクト標準を握っておくのだ。一方で,世界規模のコンソーシアムを立ち上げ,最終的には世界的な標準機関で標準化し,オープンであることをアピールしていく。

 せっかく蓄積した技術やノウハウを無償で提供するのは,もったいないかもしれないが,ソフトバンク連合にデファクトを握られてしまえば,これまで培ってきたものは陳腐化してしまう。逆に,デファクトになることで,機器/ソフトウエアを安く仕入れられる,コンテンツを集められるというメリットがある。

 さて,ソフトバンクの強者連合は成功するのか,それに対して残る2社はどう動くのか。今後の動きから目を離せそうにない。