(4)要求の引き出し

 要求の引き出し方を記述した知識エリア。BABOKによれば,要求の引き出しは,ビジネス分析の「キータスク」である。要求引き出しの準備,要求引き出し作業,引き出した結果の文書化,引き出した結果の確認といったタスクから成り,ブレーンストーミング,ドキュメント分析,フォーカスグループ,インタビュー,プロトタイピング,要求ワークショップ,調査などのテクニックを紹介している。

(5)要求の分析

 要求を引き出した結果を文書化したもの(stated requirements)を,システム開発などの具体的なソリューションのための「要求仕様」に変換するタスクとテクニックを定義している。要求の優先順位付け,要求の整理,要求の仕様化とモデリング,仮定と制約条件,要求の検証,要求の妥当性確認といったタスクから成る。

 テクニックとしては,ビジネスルールのモデリング,データモデリング(ERDやUMLのクラス図など),イベントと状態のモデリング,非機能要求(ユーザビリティや性能など),プロセス・モデリング,シナリオとユースケースなどを紹介している。この知識エリアの作業は,システム開発プロジェクトの要件定義に近いイメージだ。

(6)ソリューションの評価と妥当性確認

 ソリューション案の評価,組織的な準備(新しいソリューションを効率的に運用するための組織の決定),新しいソリューションへの移行要求(transition requirements),構築されたソリューションの妥当性確認(ビジネスニーズに合っているかどうかの確認)とパフォーマンス評価(利用状況やインパクトの評価)---などのタスクから成る。

 ソリューション案の評価は,BAが専門家(SME=Subject Matter Expert,システム開発の場合は開発者やソフトウエア・エンジニア,システム・アーキテクトなど)と協力しながら実施する。複数のソリューション案を評価したら,専門家とともに,ベストなソリューション案をスポンサーやステークホルダーに推薦する。ソリューションを外部のベンダーが提供する場合は,RFI(Request for Information)やRFQ(Request for Quotaion),RFP(Request for Proposal)を使ってベンダーを評価する。

(7)コンピテンシ
 この知識エリアは,BAに必要な振る舞いや特性,知識などを記述している。分析思考と問題解決,振る舞い特性(倫理観や信頼感など),ビジネス知識,コミュニケーションスキル,対話スキル,ソフトウエア・アプリケーション(ITの知識)---の6つを紹介している。

 いかがだろう。BABOKが定義する「ビジネス分析」が,(システム開発を前提にした場合は)おおむね「要件定義よりも前の工程」を指していることが,お分かりいただけたのではないだろうか(一部,システム稼働後の評価も定義しているが)。SEC(ソフトウェア・エンジニアリング・センター)の呼び方では「超上流工程」である(SECがまとめた書籍「経営者が参画する要求品質の確保~超上流から攻めるIT化の勘どころ~」では,「システム化の方向性」「システム化計画」「要件定義」を「超上流工程」と定義している)。

 超上流工程は,「業務とITのギャップ」を埋める極めて重要な工程である。システム開発プロジェクトの成功のカギを握ると言ってもよい。BABOKでは,この超上流工程で実施すべき作業を,おそらく初めて,体系的に整理した。その意味で大いに注目すべき知識体系だ。

 なお,要件定義よりも上流の超上流工程は,本来は,ユーザー企業が主体的に実施すべき作業である。BABOKも,「ビジネス分析を実施するのは基本的にはユーザー企業」というスタンスに立っているように思える。

 日本では,システム設計・開発だけではなく要件定義作業もベンダーに依頼するユーザー企業が多い。これは,ユーザー企業の情報システム部門が“弱体化”しているためだが,BABOKやBA,CBAPが普及すれば,情報システム部門強化のきっかけになるかもしれない。あるいは,BAという専門職種が,ユーザー企業の立場で超上流工程を支援するようになるかもしれない。