プログラマ/SEなどのIT技術者に求められるスキルは,ソフトウエア開発に関する技術や知識だけではない。特に最近では,ITに関わる新しいアイディアを考えて,お金の取れるシステムへと昇華させる,一種のビジネス・プランニング力が必要とされているようだ。

 独創的でかつ,実現可能なアイディアを考え出すことは,筆者を含む,昭和型の受験教育しか受けていない世代が最も苦手とする分野ではないだろうか。教育だけのせいにするつもりはないが,会議などで経験不足,能力不足を痛感するケースは多々ある。

 そうした思いを抱いているときに,知人の大学生が,日刊工業新聞が主催する「第2回e-キャンパス 大学生・高校生によるITビジネスプランコンテスト」で賞を受けたことを知った。いったいどんなコンテストで,何を提案したのかが気になり,話を聞いてみた。

 金宏志郎(かね こうしろう)君は,大阪大学の学生である。彼が所属するサークルが昨年(2007年),NHK大学ロボコンに関わったことから「人とロボットの協力がつくる戦い!」という記事を書いてもらった。それ以来のつきあいだ。

 その宏志郎君を代表とするチームが,前述のコンテスト(ITビジネスプラン部門)で優秀賞(大賞に次ぐ賞)を得たという。応募総数229件の中で,2位に相当する賞をもらったのだから,なかなかのものだ。

 受賞そのものもすごいが,いろいろなことにチャレンジするその気質がおもしろい男である。応募はチームからの形になっているが,彼が一人でプランを考え,資料を作り,プレゼンをしたそうだ。

 この学生向けコンテストは,IT環境や機器を活用したビジネスプランのアイディアを募集し,書類審査(1次審査)とプレゼンテーション審査(2次審査)を経て,各賞を決めるというもの。したがって,システムの実装までは必要ない。審査員は,新規性,市場性,実現可能性,収益性などに着目して評価する。

 彼が提案したのは「ケータイアプリによるヘアアレンジ・予約システム」。ヘアスタイルをコーディネートできる携帯電話上のアプリケーションと,それを通して理容店に対する予約までを完了できる統合的なシステムという。携帯電話で自分の顔を撮影し,アプリケーションで顔に合わせて自分でヘアアレンジをする。そして,それを理容店に送信・予約して,希望通りにカットしてもらうというイメージだ。

 いつも床屋に行くたびに,希望のヘアースタイルをうまく伝えられず,結果的に悲惨な髪型にされる──そうした経験に基づいたプランだという。自分もそうだという人も多いだろう。彼のプレゼン資料を見せてもらったが,「来店して座っているだけで理想の髪型に!」のキャッチコピーに笑ってしまった。切実な願いが伝わってくる。確かに市場性はありそうだし,システム的にも実現できそうだ(実際,ヘアー・コーディネートだけのアプリケーションなら,すでに似たようなものがあるらしい)。

 このコンテストは,最初の書類作りとプレゼンがすべてである。彼が作った資料は,効果的に図表を駆使し,文章も簡潔でわかりやすい。事業展開の流れ,課題とそれに対する施策,収支予測といった項目も,いろいろな資料に基づいて考慮されており,納得できる内容になっている。そのままビジネス文書として使えそうなほどの完成度に見えた。

 関西人らしく,プレゼンではウケを狙ったものの反応が今ひとつだったので,受賞は無理だと思っていたらしい。しかし,書類審査の評価がかなり高かったそうだ。

 たかが学生向けコンテストとあなどることはできない。こうした経験や訓練は,就職した後でも(IT業界でなくても)きっと役立つだろう。文書の作り方や,プレゼンの方法だけではない。そうしたものは社会人になってからでも身に付けられる。日頃困っていること,あればいいなと考えていることを発展させて,万人にわかる形にするという力が大事なのだ。いまだに20歳以上も年下の彼から教わることは多い。