お店のレジ端末にカードや携帯電話機をタッチすれば,瞬時に決済・支払いが完了する「電子マネー」。主要な電子マネーの発行数は2008年3月までに9000万枚を超えた模様で,「1人1枚」の時代が近づいている。

 電子マネーは首都圏や関西圏だけではなく,地方にも広がり始めた。イオンは3月1日,郊外店も含めた全国約2万4000店舗で,独自の電子マネー「WAON(ワオン)」やJR東日本(東日本旅客鉄道)の「Suica(スイカ)」などを使えるようにした(関連記事)。5月18日には福岡市などを地盤とする西日本鉄道が「nimoca(ニモカ)」を導入するなど,今後も各地で大規模導入が相次ぐ。

入金するだけで1.5%還元

 1円でも節約したい消費者としては,電子マネー競争に付随した恩恵を享受できる好機だ。記者はJR東日本と家電量販店のビックカメラが共同で発行する年会費無料のクレジット・電子マネーカード「ビックカメラSuicaカード」を使っている。生活圏でSuicaが使える店舗が多いのに加えて,ポイント還元率が高いからだ。

 JR東日本は,自動改札機・券売機などの駅務機器の設備投資予算を活用して早期に電子マネーを導入した。このため,他の電子マネー事業者に比べてポイント原資が潤沢だと記者は見ている。実際に,ビックカメラSuicaカードにクレジットを使ってチャージ(入金)するだけで1.5%分のポイントが付く(チャージ1000円ごとに「サンクスポイント」6ポイントが付き,400ポイントで1000円分のSuicaに換金できる)。

 チャージしたSuicaは,鉄道・バス・タクシーの移動や買い物などで幅広く使える。Suicaで私鉄・JRの回数券を購入すれば,その分の割引も別途得られる。JR西日本(西日本旅客鉄道)の「ICOCA(イコカ)」と互換性があり,関西方面への出張・帰省時にも使えるので,すぐにポイントがたまる。

 さらに,コンビニエンスストアのニューデイズといったJR系店舗やファミリーマート(「Tカード」の提示が必要)などでは,別途0.5~1%程度の独自ポイントが付く。ビックカメラはもともと「20%還元」などポイント付与率が大きい。通常ならポイントを使って商品を購入するとその分のポイントは付かないが,ビックカメラSuicaカードでためたポイントはSuicaに換金でき,これを使ってビックカメラで買い物をすれば,再度ポイントをもらえる。

 こうしたポイントの“大盤振る舞い”はいつまでも続くとは限らない。実際に,電子マネー「Edy(エディ)」が収納代行に使えなくなるなど,電子マネー利用を制限する動きもある(関連記事)。しかし,電子マネー事業者は数十億円単位の先行投資をしている。損益分岐点を越えるまで,利用促進のためのポイント付与競争が続くのではないだろうか。

企業側にはポイント負担を補う知恵が必要

 消費者にとってはありがたいことだが,小売業・サービス業の企業側から見れば,既に「ポイント3倍キャンペーン」などで重い負担を抱えるのに,さらに数%の電子マネー決済手数料を支払わなければならない。この費用を補うには,電子マネーなどから得られる顧客動向データを販促活動に活用することが不可欠になる。

 例えば,『日経情報ストラテジー』最新号(6月号)の特集記事「真の優良顧客を探せ!CRM(カスタマー・リレーションシップ・マネジメント)の落とし穴」では,東京のJR山手線・五反田駅前にある老舗和菓子店「進世堂」が,Suica,PASMO(パスモ)のカードをそのまま使ったポイントサービスを基点にして優良顧客にアプローチし,売上高を増やした事例を紹介している(関連記事)。1人1枚の社会インフラになった電子マネーは,使い方によって毒にも薬にもなりうる。