653億2000万円。2007年度の電波利用料の歳入額である。電波利用料は,いま話題になっている道路特定財源と同じく,使途が特定されている特定財源である。意識している人はあまりいないと思うが,少なくとも携帯電話ユーザーならば電波利用料を負担している。5兆円超の道路特定財源が注目されているが,電波利用料について考えてみたい。

 電波利用料は,電波を適正かつ効率的に利用するための費用をまかなうことを目的に,無線局を利用する個人や企業などに一定の負担を求める制度である。1993年4月にスタートした。具体的な目的は,(1)電波の監視・規正および不法無線局の探査,(2)総合無線局管理ファイルの作成・管理,(3)電波を効率的に利用するための技術開発,(4)特定周波数変更・終了対策業務--などである(電波利用料制度のサイト)。

 電波利用料はこのような活動に必要な費用を計算し,各無線局に割り振る。各無線局への分担は,簡単にいえば,電波の帯域や出力と経済的価値などを勘案して決める。電波利用料は,3年ごとに見直すことになっており,2008~2010年度についての案が,現在,参議院で審議されている。

携帯電話の普及とともに歳入額が急伸

 電波利用料の金額は,携帯電話の普及とともに急速に伸びてきた(図1)。制度導入の初年度である1993年度は,約73.8億円であったが,2006年度には658.3億円と約9倍になっている。

図1●電波利用料の歳入額の推移

 電波利用料の導入が総務省(当時は郵政省)で本格的に検討されたのは,1991~1992年のこと。所管の財源ができることで,関係者は色めき立った。きな臭い話も聞こえてきた。制度発足時は各無線局の電波利用料の算定方法は,現在とは異なっていた。各無線局の電波の出力や帯域幅などから金額を算定し,結果として総額が決まるという方式であった。

 その金額も決定まで揺れに揺れた。1992年2月,総務省は,作成した電波利用料の法案(電波法の改正法案)を,閣議決定の前にさまざまな方面に打診した。その過程で金額は何回も修正された。当然,それぞれの無線局を利用するユーザーやベンダーから「もう少し安くできないか」という声が噴出したからだ。総務省の担当者が法案をもって各省庁に説明に回った1日の間でも,数回金額が変わったほどである。

 もっとも携帯電話/自動車電話については,当初の案どおりで決定した。92年初めでは,携帯電話端末の売り切り制度の導入前で,携帯電話/自動車電話の契約数は130万くらい。携帯電話ユーザーの発言力は弱った。アマチュア無線やMCA(業務用無線),防災無線などの関係者からの要望があり,当初の案から利用料は引き下げられた。もし今のように,携帯電話の契約数が1億を超えていたら,制度そのものの導入自体まで,影響したかもしれない。

 2006年度の歳入の内訳をみると,携帯電話関連で8割を占めているとみられる(図2)。ここで議論がある。携帯電話関連で637億円くらい負担しているのに,テレビやラジオは約6.7億円と2ケタ少ない。売り上げは携帯電話事業のほうがテレビよりも大きいが,電波帯域はテレビのほうが広い。一方で,アマチュア無線などが2.6億円負担している。当然,テレビの負担は少なすぎるという声が上がっている。

図2●2006年度歳入の内訳
代表的な無線局のみを示している。

 このため,2008~2010年度は,携帯電話端末の電波利用料は現行の420円から250円に減額され,テレビなどの利用料は引き上げられる見込みである。

使い道や金額は適正か

 そもそも使い道,予算が適正なのかという議論もある。電波監視をはじめ,電波利用料の使い道はいずれも必要かといえば必要といえるであろう。しかし,その必要度,さらにその金額が適正かどうかは判断が難しい。

 たとえば,不正電波を監視するのに75.9億円も必要なのか(図3)。無線局の申請処理や周波数管理のための総合無線局管理システムに,1993~2007年度の15年間で1200億円を費やしている。毎年100億円前後というのは,大企業なみの金額である。

図3●2007年度の電話利用料の歳出予算内訳

 2005年度から登場した周波数資源拡大研究開発は,おもに企業などに研究開発費を支援する形で進めている。しかし,すべてが電波利用料から拠出してまで必要な研究開発なのだろうか。

 特定財源,つまり,特別会計というのは,特定の事業などのために経理を分けて収支を明確にするという意味がある。また,受益者負担という考え方が明確になる。

 しかし,その半面,特別会計という形で“財布”が分けられるため,入ってくるお金を自由に使いやすくなるという問題がある。必要性が必ずしも高くなくてもお金があるから進めよう,と無駄遣いに近くなる恐れがある。道路特定財源や年金でもその可能性があることが立証されている。

 電波利用料の徴収額,その使い方が適正かどうかを注目していきたい。もっとも,そのための情報開示が十分とはいえないのだが。