「従来製品に比べて消費電力を○○%削減できます」──。最近のサーバーやパソコンの新製品発表では,必ずといっていいほどこのような文言を目にする。IT機器の省エネ化を推進する「グリーンIT」をキーワードに,ベンダーが消費電力低減を競っているように見える。中には「他社製品との比較」で省エネをアピールするベンダーもある。

 サーバーやパソコンだけではなく,これからはルーターやスイッチなどネットワーク機器の省エネがグリーンITの“本命”になるのではないかと筆者は見ている。日経コミュニケーション4月15日号の特集記事の取材中も,ネットワーク機器の省電力化を今後どうするかが,たびたび話題に上った。

 経済産業省が試算したIT機器の消費電力量によると,2006年の消費電力量は466億kWhでこのうちネットワーク機器は80億kWhで全体の17%程度にとどまる。ちなみに最も多いのが,サーバー/データ・センターで全体の46%を占める。しかし,2025年になると状況は一変しそうだ。2025年のIT消費電力量は2417億kWhで,このうちネットワーク機器は実に1033億kWhと全体の43%。ネットワーク機器の消費電力量は,2006年の約13倍に膨れ上がる見通しだ。

 ネットワーク機器には,通信事業者が利用する機器も含まれる。このため,一般の企業の努力だけでどれだけ省電力化ができるかは未知数だ。しかし,ネットワークで大量のデータを扱い,社内に多数のネットワーク機器が散在するようになった今,ネットワーク機器の省エネ化が求められるのは必然的な流れだろう。

今夏にもルーター,スイッチにトップランナー基準適用

 ネットワーク機器の省エネ化を促進するために,省エネルギー法に基づく「トップランナー基準」が,今夏にもルーターとスイッチにも適用される見通しだ。トップランナー基準とは,省エネルギー法の中で,大量の電力を消費する機器に指定された「特定機器」が守るべき省エネの具体的な目標値を指す。目標値は,設定時点で最も省エネに優れた製品に合わせて決める。これまでに21機器が特定機器として指定されており,パソコン,サーバー,磁気ディスク装置が既に対象となっている。

 トップランナー基準は,メーカーが出荷する機器の消費電力の平均値が目標年度に目標値をクリアしていることを求められる。つまり,メーカーが複数の製品を提供している場合には,目標値をクリアしていない“非省エネ”製品があっても,目標値を大きくクリアした省エネ製品を提供することによって,全体の平均が目標値を下回ればよい。

 ネットワーク機器のうち,まず今夏にも対象に加えられるのが,入出力の実行伝送速度の総和が200Mビット/秒以下でVPN機能を持たない小型ルーターとレイヤー2スイッチである。200Mビット/秒を超える大型ルーターやレイヤー3スイッチも対象範囲や目標値などの検討が進められており,2009年春にもトップランナー基準の対象となる予定だ。

 トップランナー基準では,小型ルーターの目標年度が2010年度,レイヤー2スイッチの目標年度が2011年度に設定されているが,最近発売されたネットワーク機器の中にも,省電力をうたう製品が登場するようになった。例えば,NTTのNGN(次世代ネットワーク)にも採用された米シスコのエッジ・ルーター「Cisco ASR 1000シリーズ」が,ポート当たりの消費電力を従来製品よりも下げた。今後トップランナー基準が適用されることによって,ネットワーク機器の省電力化の傾向はさらに進み,ユーザーにとって省エネ製品の選択肢が広がりそうだ。

ネットワーク機器も運用による省電力化を

 ネットワーク機器の省電力化が進めば,他のIT機器と同様に,リプレースによって必然的に消費電力を減らせるだろう。しかし,ネットワーク機器もやはり,省エネのためだけに置き換えるのはコスト的に厳しい。

 そこで,ネットワーク機器も運用管理によって消費電力を下げられる可能性がある。サーバーの場合,使用状況に応じて仮想化技術によって使用するリソースを制御したり,CPUのクロック周波数を調整することによって,消費電力を抑えられるソリューションが提供されている。

 また,クライアント・パソコンの場合には,資産管理ツールを使用して,PCの省電力設定ポリシーを社内ネットワークに接続する端末に対して強制的に適用することも有効だ。具体的には,パソコンを操作しなくなって一定時間後にモニターの電源をオフにしたり,終業時刻になるとパソコンの電源をオフにしたりする。いずれも,アイドル状態のマシンの消費電力に対して,いかに無駄をなくすかという発想に基づいている。

 ネットワーク機器は,たいてい電源が常にオンになっている状態である。もちろん,ミッション・クリティカルなネットワーク・システムでは,常時電源オンの状態であることを求められるだろう。しかしそうでない場合,社内のネットワークを使用していない時間帯など,ネットワーク機器のアイドル状態を見直すことで相当の効果があるのではないだろうか。今後,ネットワーク機器も運用管理によっていかに消費電力の無駄を省くことができるかを検討していく必要があるだろう。