具体化する法規制への動き

 3)の基準を策定する第三者機関として総務省が「1番手」と期待するのが,MCFが4月末をメドに設立準備を進めているモバイルコンテンツ審査・運用監視機構(EMA:Content Evaluation and Monitoring Association,エマと発音)だ。

 EMAが何をする機関かということは,設立趣意書案設立計画書案として公開されている。主な事業内容としては次の2点が挙げられている。一つは,サイトの管理体制が健全であるかどうかなどの基準を策定し,その基準に基づいたサイトの認定と運用監視を行うこと。これによって,EMAという第三者機関による「認定サイト」が登場することになる。設立作業が予定どおりに進めば,認定作業を5月末に開始して,最初の認定サイトは早ければ6月末にも明らかになる。その後,携帯電話/PHS事業者はこの認定サイトをブラックリスト方式の制限対象から外すことを検討する,といった流れになる。

 もう一つは,有害なサイトを制限するためのカテゴリ基準の策定だ。ここでいうカテゴリ基準とは,現在のフィルタリング・サービスのカテゴリをもっと細分化して,できるだけ有害サイトを限定していくためのもの。「今のしくみで短期間で実現するためにはこれしかない」という判断だ。

 EMAは3月25日に開催された第4回準備委員会をもって準備検討段階を終わり,4月30日の設立に向けて作業を始めることになった(関連記事)。

 2月28日に開催された前回のEMA準備委員会では「あわてて事を進めている印象を受ける。もっと広く関係者に意見を聞くなどして幅を広げないと,後で取り返しのつかないことにならないだろうか」という不安の声が挙がった。また,あるプロバイダからは「このままでは参加できない」という厳しい意見も出た。それが今回の委員会では特に異論が出ることもなく,すんなりと設立趣意書案や設立計画書案が認められた。この点についてMCFの岸原孝昌事務局長は,「基準作りや審査を拙速にしないためにも,早く機関を設立して作業を開始しようという方向で関係者の意見が一致した」という。

 EMAではワーキング・グループなどで既に先行して基準を検討しているとはいえ,4月末の設立で5月末に基準を公開するというスケジュールは,やはり気ぜわしくみえる。では,何が業界を急き立てているのだろうか。

 それは,携帯電話/PHSのサイトに対する法規制への動きが具体化してきたためである。自民党の青少年特別委員会は先週,青少年が有害なサイトを閲覧してしまうことを防ぐための法律案をまとめた。この中で携帯電話のフィルタリングについては事業者に提供を義務付けており,例外として認められるのは「青少年でないこと,および,利用しないことを明確に意思表示すること」という極めて厳しい規制となった。民主党も何らかの規制を盛り込んだ法案を検討中である。また,一部の自治体では条例でフィルタリングを義務付けようとする動きもあるようだ。

 法規制化について,第4回のEMA準備委員会にオブザーバとして参加した総務省の総合通信基盤局電気通信事業部消費者行政課の岡村信吾課長補佐は次のようにコメントした。「昨年12月にフィルタリング・サービスの原則化を大臣要請したこともかなり思い切った措置だと認識しているが,青少年保護を求める世の中の動きは想像以上に強い。それが法案化に見られるように,規制という形で青少年を保護すべきではないかという動きになっている。総務省としては行政による法規制ではなくて,業界の自主的な取り組みとして青少年の保護を進めていくべきだと考えている」。続けてEMAのような第三者機関の重要性について「いま大事なのは業界としての取り組みを何らかの形で立ち上げること。そのためにEMAの取り組みを早く実施に移して,持続性のあるものにしてほしい」(総務省の岡村課長補佐)と語った。

フィルタリングに頼らない手立てを探そう

 このようにフィルタリングには法規制化という強烈な逆風が吹いているため,精度や使い勝手は間違いなく改善の方向に向かう。ただITpro読者の皆さんなら,フィルタリングがどれだけいいものになろうと,「これでもう大丈夫」とはつゆほども思わないだろう。ネットの脅威から身を守る術は,複数の対策を組み合わせるのが常識。ところが今の携帯電話/PHSにはフィルタリングしかない。フィルタリングを使わないとすると,他に選択肢がない。有害サイトから子供を守る手立ては他にないのだろうか。

 筆者は,携帯サイトを通じて未成年が事故に巻き込まれる遠因としてパケット定額サービスを指摘したい。NTTドコモは2003年にホワイトリスト方式のフィルタリング・サービスの提供を始めたが,それはパケット定額サービスの提供に合わせてのことだった。「子供が興味のおもむくまま入ったサイトでトラブルに遭わないようにアクセスを公式サイトに制限した」(NTTドコモ)という経緯なのだ。

 乱暴なたとえになるが,パケット定額サービスで子供がお金を気にせず興味のあるサイトをどこでも好きなだけ閲覧できるという状況は,無限のお小遣いを与えて危険な店もある繁華街に放り出すようなものと筆者には思えてしまうのだ。

 一方で,もしお金がかかるとなると,子供も興味本位であれもこれもではなく,「このサイトに入ろうかどうしようか」と立ち止まって考えるようにならないだろうか。そのときに「やばそう」「あぶなそう」といった危機察知能力が働くかもしれない。今のパケット定額サービスは,こうした危機回避の機会を子供から奪ってはいないだろうか。

 そこで筆者が提案したいのは,18歳未満の未成年ユーザーに対する「上限付きのパケット従量制サービス」だ。今でも事業者各社には一定額に達するとそれ以上使用できなくなるサービスがある。それとパケット従量制サービスを組み合わせれば,すぐにでも実現できる。もっとも今のパケット単価では,上限値の設定にもよるが,あっという間に使い切ってしまう。だから事業者各社には,子供向けに課金単価を下げた従量制サービスを提供してほしいと思う。

 もちろんこれは間接的な防御策であり,フィルタリングのように有害サイトのアクセスを直接止めるという手立てではないので,効果が直感できるものではないだろう。しかし,子供に立ち止まって考えてもらう機会を与えることは,いま盛んに言われているICTメディアリテラシー教育の一つだと筆者は考える。子供に「使わせない」ではなく「考えて使ってもらう」ための実現可能な手立てをこれからも考えていきたい。