「デスクトップパソコン、ノートパソコンが3150円。液晶ディスプレイは3150円。CRTディスプレイが4200円」――これは中古品の価格ではない。家庭にある不要なパソコン関連製品を廃棄するのに必要な回収再資源化料金である。

 以前、家庭で廃棄するパソコンは、燃えないゴミや粗大ゴミとして自治体に回収してもらうのが一般的だった。それが現在は、「PCリサイクル」という仕組みで廃棄することになっている。

 この仕組みは、有効資源促進法に基づいて2003年10月に始まったもの。パソコンの部品から金、銀、レアメタルなどの貴金属、銅や鉄、ガラスなどを取り出し、資源として再利用することが目的だ。ユーザーがパソコンやディスプレイを捨てるときは、メーカーに回収を依頼し、メーカーは自社が契約する再資源化施設に、これらの機器を運び込んで再資源化処理をする。

 この際の処理費用としてユーザーが負担するのが、冒頭に挙げた回収再資源化料金だ。納入方法は大きく2つ。一つは、購入時に価格に上乗せして支払う方法。この場合、パソコンに「リサイクルマーク」というシールが付く。

 もう一つは、廃棄時に料金を支払う方法。PCリサイクル開始以前に発売されたパソコンや、自作パソコンなどがこれに当たる。この場合、パソコンにシールは付いていない。

 いずれにしろ、ユーザーはパソコンを捨てるために、3000~4000円の料金を負担することになった。これを高いと見るか、安いと見るか。正直、筆者はこれまで高いと感じていた。「不要なパソコンを捨てるのに、こんなにお金を払わないといけないなんて…」というユーザーとしての素朴な感情を抱いていたのである。

リサイクルは矛盾との戦い

 この考えが、リサイクルの現場を見ることで大きく変化した。『日経パソコン』2008年3月10日号の特集「PCの正しい捨て方」を担当したことで、国内のリサイクル工場をいくつか取材する機会を得たのがきっかけだ。取材後の率直な感想は、「ユーザーの負担だけだと、リサイクルビジネスは割に合わない」というもの。なぜなら、パソコンのリサイクルには、製造過程をしのぐほどの手間がかかっていたからだ。

 廃棄パソコンを資源として再生するには、素材別に適切な処理をしなければならない。このため、基盤は基盤、電源は電源、ケーブルはケーブルというようにパーツを取り出し、分類。ケーブルなら、被覆と内部の導線に分けて、導線から銅を取り出して再資源化する。残った廃棄物は、有害物質が出ない方法で処分する。

 パソコンのきょう体から中のパーツを取り出して、部品ごと、素材ごとに分類する作業はすべて手作業だ。同じ形状の製品を大量に扱う生産の現場と異なり、リサイクルの現場に集まるパソコンは形状も材料もバラバラ。機械化は難しい。しかも、廃棄物は海外に持ち出すことができないため、国内で作業する。その分、人件費もかさむ。実際、リサイクルにかかる費用はユーザーから徴収する回収再資源化料金では足りていないという。

 だからといって、「ユーザーがさらに負担すべき」と主張したいわけではない。ユーザーの負担は、少なければ少ないほどいい。これは当然のことだ。

 筆者が求めたいのは、メーカーの製品設計・製造過程での発想の転換である。製造時のコストや利便性だけでなく、リサイクルの際の手間も考慮してほしいのだ。PCリサイクルの制度が始まり、パソコンの生産から廃棄までがメーカーの管理下に収まったことで、メーカーはリサイクルを考慮に入れた設計をすることが可能になるはずである。

 例えば、製品を箱に詰めたときの安定性を増すよう、発泡スチロールの一部に段ボールを貼り付けた梱包材がある。発泡スチロールだけ、段ボールだけならリサイクルできても、これらが貼り付けられたとたん、廃棄物にせざるを得なくなる。両者をはがすのに必要なコストが成果と見合わないからだ。パソコンのきょう体に使うプラスチックも、見栄えを良くしようと塗装や加工をしたために、不純物が増え、リサイクルに手間がかかったり、リサイクルできなくなったりする。

 ある再資源化施設の担当者は「リサイクルは矛盾の固まり」と話す。生産段階で効率的と思われたことが、リサイクル段階では非効率的になるという矛盾。もうひと手間かければ再資源化できる、ただしそれではコストが見合わないという矛盾。リサイクルの現状にはそういった矛盾が山ほどある。リサイクルの現場はこれらの矛盾との戦いなのである。

 これらの矛盾を解消していくには、生産段階を巻き込んだ取り組みがどうしても必要だろう。設計を見直し、製品のネジを数個減らすだけでもリサイクル作業の効率は上がる。今後は、リサイクル現場の課題を生産段階にフィードバックし、それを設計や製造に役立てるべきだ。これによって、生産段階のコストが多少上がったとしても、廃棄処理の手間を減らせれば、トータルで効率化が進むこともあるだろう。

 もう一度、言う。製品のライフサイクルに廃棄・再資源化という項目が加わった今、製造現場に発想の転換が求められている。