記者がIT関係の取材を始めて10年以上が経過した。インターネットの普及によって,机の前に居ながらにして世界のニュースを知ることができるようになった。

 記者は業務の一環として,主としてオンラインになるが,世界で起きているニュースを読むことにしている。今回は,2008年に入って,驚いたニュースを紹介してみたい。

 2次情報になるので記事の信頼性に最終的な責任を持てないが,気分転換のつもりで読んでもらえれば幸いだ。グローバリゼーションという言葉の意味を実感してもらえれば言うことはない。

デスクでインドのERP事情が分かる

 まずはインドのERP(統合基幹業務システム)事情である。2008年3月17日付のlivemint.comの「Microsoft may overtake Oracle as No.2 ERP vendor:analysts」という記事によるものだ。

 ほとんどの読者の方はご存じないだろうが,インドのERP市場のトップはSAPインド法人である。現在の2位はオラクルインド法人なのだが,2010年にはマイクロソフトインド法人がオラクルを追い抜くという。SME(Small and Medium Enterprise)と呼ばれ急成長している中堅・中小企業向けのERPに,マイクロソフトが焦点を絞っていることがその根拠である。

 この記事は,米国の調査会社であるFrost and Sullivanの分析を基にしたものだ。2006年時点のインドのERPシェアは,SAPが48.3%,オラクルが24.9%で,マイクロソフトは12.2%に過ぎない。こういった数字や市場の状況を机の前で知った時には,単純に驚いてしまう。

 もっとも,この逆転には市場規模も関係していると考えられる。インドのERPの市場規模は06年には5420万ドル(1ドル=97円換算で約53億円)。07年には47.6%増の8000万ドル(約78億円)に達し,13年には1億8500万ドル(約180億円)に成長すると予測されているが,まだそれほど大きなものではない。急速に成長しているとはいえ,規模でみればまだ日本の10分の1程度である。逆転しやすい環境なのかもしれない。

インドIT企業の陰

 インド関連では,ほかにも気になるニュースがある。かなりショッキングなニュースなので2番目に書くことにした。

 世界最大のITベンダーであるヒューレット・パッカード(HP)のインド会社の1つであるヒューレット・パッカード グローバルソフトで幹部を務めた経験を持つ人物を,インドの最高裁判所が訴追することを決定したというのが,その内容である。今年1月31日付のニューヨーク・タイムスの「H.P. Case to Go Forward in India」という記事によるものだ。

 この人物が訴追されることになったのは,同社に勤務していた女性が,同社が採用した運転手に暴行され殺された2005年の事件が原因である。

 記者は想像もしたことがなかったのだが,被害者の女性が勤めていたインドのバンガロール地域では,女性が夜に働くことは許されてないという。IT関連産業に従事する女性は特別に許可されるのだが,企業には安全な移動を保証することが義務付けられる。にもかかわらず女性が殺されたことが問題視されたようだ。詳細まではこの記事からは分からなかった。

 同じ記事によれば,インドの大手ITベンダーとして知られるWiproでも,2007年11月に同様の事件が起きたという。時差のある海外企業向けのサービスを請け負う中で,夜間勤務が増えたことの副産物というのだろうか。

 訴追に至る状況もグローバリゼーションの陰を強く感じさせるものだ。残念ながらこの事件の最新状況についての情報を記者は持っていない。ただ,HPの事件が契機となってかどうか,運転手の採用基準が厳しくなっているという記述があった。

IBMの歴史が燃え,イーベイがボイコットされる

 米国のシリコンバレーで起きている最新ニュースは,日本でも数多く報道されている。その一方で,報道されないニュースもある。記者が気になったは,3月1日の「Probe under way of fire that destroyed historic IBM building in San Jose」という,Mercury News.comのニュースである。

 このニュースは,サンノゼの歴史的建造物に指定された,1957年建造の元IBM所有のビルが火災にあったというものだ。幸いなことに1996年から空きビルになっていたという。このビルはハード・ディスク・ドライブの発展に大きく寄与した場所だという。

 不勉強であるが,記者はIBMとシリコンバレーのつながりを意識したことがなかったので興味深かった。もちろん,こういった歴史のある建物が火災にあったことは非常に残念だ。

 IT産業の聖地とも言えるシリコンバレーでは,このほかにも様々な出来事が起きているようだ。特に記憶に残っているのは,シリコンバレーに本拠を置くネットベンチャーとして注目度の高い,ネットオークション大手のイーベイに関するニュースである。

 タイトルは「eBay Seller Strike: 3% Decline in Listings by Mid-Week」。オンラインメディアのMashableが提供した。イーベイは今年に入ってオークションに関する料金体系の変更を実施した。これに反対したイーベイの常連出品者が2月19日から出品をボイコットしたというニュースだ。Mashableが伝えるところによると,このボイコットが原因で,オークションの出品数は1450万品から1400万品に減少したという。Mashableの別の記事によれば,ボイコットは3月に入るまで延長されたようだ。

 ゴシップめいた話を書くのはやめるが,世界にはネットを含めたIT業界だけを対象にしたオンラインのゴシップマガジンのようなものまである。VALLY WAGがそうだ。ゴシップ満載ではあるものの,米国のネット企業を代表する人物,今まさに話題の人物に関する人間くさいエピソードが満載である。本当の気分転換に良いだろう。もちろん時にはビジネスに直結するニュースも掲載されている。

薄い日本の存在感

 少なくとも世界が様々な話題に満ちていることは実感してもらえたかと思う。記者が,英文を中心とした世界のニュースを見て一番気になるのは,日本発のニュースが少ないことだ。日本企業は,その実力に比べて海外への情報発信が少ないのではないか,という声はよく聞くが,海外のニュースを読めば読むほどその思いは強まる。

 日本発の明るいニュースが世界を駆け回る日を期待して筆を置きたい。その記事に直接,かかわることができれば最高である。