NTT東西地域会社が2007年度中の商用化を目指してきた,NGN(次世代ネットワーク)による新しいFTTHサービス「フレッツ光ネクスト」の概要が徐々に明らかになってきた。しかし,まだその全貌の正式発表は見送られたままである。なぜNTT東西は,新サービスを大々的に発表し,先行販売を開始しないのか。これまでに公表された内容から探ってみたい。

 まずNTT東西は,2008年2月27日に総務省による業務認可を受けて,NGNの商用化に向けた「サービスの検討状況」を発表。サービスの名称と料金の概要を公表した(関連記事)。その2日後の29日には,総務省に2008年度の事業計画を認可申請。その中でフレッツ光ネクストの初年度の獲得目標や設備投資額などを明らかにした(関連記事)。

 この二つの発表で,フレッツ光ネクストは,(1)月額料金は既存のサービス「Bフレッツ/フレッツ・光プレミアム」(以下,Bフレッツ)と同額であること,(2)サービス開始時点の提供エリアは,2007年に実施したフィールドトライアルと同じ,首都圏の10区,近隣4市,大阪市のそれぞれ一部地域のみに限られること,(3)2008年度にNTT東日本が60万件,NTT西日本が20万件,合計80万件の新規ユーザーを獲得する計画であること,などが明らかになった。

NGNサービスは開始前の先行予約を受け付けていない

 ここまで内容を公表しておきながら,NTT東西はいまだにフレッツ光ネクストの正式な開始予定を発表していない。サービス開始日は「2007年度内ぎりぎり」の3月31日になるとの見通しを表明しているが,開始日より前に,加入予約を受付けたりはしていない様子だ。

 わざわざ新しいネットワークを構築して新サービスを始めるこの機会に,開始予定日の2週間前になっても正式発表を行わず,先行予約も受け付けていないのは異例のことと言える。この理由の一つには,NGNを商用化するための条件となる制度整備が済んでいないことがある。NGNを他の通信事業者に貸し出す条件を定める「接続ルール」は,まだ総務省の情報通審議会で審議中の段階にある。2月27日に下りた業務の認可が実効性を伴っていない状況なのだ。

 このためNTT東西は,2月27日の時点では「検討状況」という,あいまいな位置づけで料金などを発表せざるを得なかったのである(関連記事)。

FTTH全体の340万とNGNの80万,どちらを重視するのか

 しかし筆者はそれ以上に,NTT東西がNGNを積極的に販売できない事情があるのではないか,と見ている。それを感じさせたのが,2月29日の事業計画の中で掲げたユーザー獲得目標の数字だ。NTT東西は,フレッツ光ネクストも含めた2008年度のFTTHサービス全体の純増目標を,NTT東日本が200万件,NTT西日本が140万件,合計340万件とした。

 この340万件には,フレッツ光ネクストの獲得目標である80万件をすべて組み入れられるわけではない。フレッツ光ネクストの場合,当面の対象エリアである主要都市部ではすでにBフレッツがある程度普及しており,既存のBフレッツ・ユーザーの乗り換え需要が一定の割合で生じると想定されるからだ。

 仮に,80万件の半分の40万件近くが,Bフレッツからの乗り換えになった場合,全体目標の340万件の純増をクリアするハードルは高くなる。既存のBフレッツだけで,300万件の新規ユーザーを獲得しなくてはならないからだ。2007年度の純増実績(予測値)は,東西合計で290万件。これに対して2008年度は,新サービスであるフレッツ光ネクストを投入した上で,なお既存サービスで今年の実績を上回る純増を積み上げなければならないことになる。

 そうでなくても最近は,FTTHサービスのユーザー増加ペースは落ち着く傾向にある。これに加えて,新サービスが順次エリアを拡大していく2008年度中は,潜在的なBフレッツの新規ユーザーの間で,新サービスであるフレッツ光ネクストの対象エリアになるのを待つ“買い控え”が起こる可能性さえある。

 つまり,NTT東西にとって2008年度は,既存のBフレッツをどれだけ主力サービスに位置づけたまま純増を獲得できるかが課題になっているのである。「2010年度末にFTTHサービス全体で2000万件」というNTTグループの中期経営目標を達成するためには,新サービスの目標80万が達成できなくても,まずは2008年度に全体の純増340万件を達成する方が優先される状況といえる。

 フレッツ光ネクストは,当面できるだけ狭いエリアで,新規ユーザーの獲得だけに絞った販売活動を行い,Bフレッツからの乗り換えはあまりおすすめしたくない,というのがNTT東西の本音だろう。そう考えれば,フレッツ光ネクストのサービス内容が「Bフレッツとほとんど差が無く,料金面でも乗り換えのインセンティブがない」という形で登場してきたことにも,ある程度納得がいく。このような批判が出てくることを承知の上で,全国でBフレッツを継続して高いペースで販売する体制を維持しなくてはならないからだ。

 NTTグループはこれまで,「NGNの商用化開始で,FTTHに対する新たな需要を掘り起こしたい」と繰り返してきた。しかし,こうした状況を考えると,2008年度にフレッツ光ネクストがFTTH需要拡大の起爆剤になる可能性は低いと言えるだろう。