すでに1億以上の契約があり,日本に住むほとんどの人が所有している計算になるケータイ。頻繁に使う人,時々しか使わない人と,その使い方は千差万別だが,誰でも使うときにまず目にするのは「待ち受け画面」だろう。普通のケータイであれスマートフォンであれ,多くの場合は待ち受け画面から操作を始めるはずだ。この画面をビジネスのツールに活用する手段はないだろうか。

 振り返ってみると,昔のケータイの待ち受け画面はシンプルなものだった。10年ばかり前,iモードなどが始まる前のケータイの液晶ディスプレイは,せいぜい数行の文字表示ができる程度。そこは電話帳の名前を確認したり,入力した電話番号を見たり,それ以外の時には「時計」として使われるといった場所だった。

大きくきれいに---さらに情報の窓へと

 iモードのサービスが99年2月に始まり,当時のキャッチコピーではないが「話すケータイから使うケータイ」へと変ぼうを遂げた。画面は大きくなりWebやメールの情報を表示する窓としての役割が高まったのである。その後の液晶のカラー化やカメラ付きケータイの登場で,ディスプレイはさらに表現力を高めていった。待ち受け画面も精細な写真や凝ったグラフィックスなどが使われ,見た目に華やかになってきた。

 さらに待ち受け画面は,ケータイアプリを設定できるようになったり,Flashを使って動きや時刻に連動した表現を得たりした。ケータイを開いたときの楽しさは,確実に増してきた。とは言え,待ち受け画面を機能として考えたときには,大きなパラダイムシフトは起こらなかった。多くの場合は,やはり「時計」だったのだ。

 そこに一つの変化をもたらしたのは,NTTドコモが2005年9月にサービスを開始した「iチャネル」だと思う。ケータイにニュースや天気予報などの最新情報を自動的に送り,それを“テロップ”で表示するサービスである。それまでのほとんどの待ち受け画面と異なり,ケータイを開いた時に「そこに変化する情報がある」ようになったのだ。こうしたサービスや機能がそれまでまったくなかったわけではないが,iチャネルの開始により一般に広まったと考えてもいいだろう。

 iチャネルは157.5円/月の有料サービスにもかかわらず,2008年1月には1500万契約を突破。現在はKDDIが「EZニュースフラッシュ」,ソフトバンクモバイルが「S!速報ニュース」として,iチャネルと同様のサービスを提供している。待ち受け画面で情報を得るスタイルは,ケータイ利用者になじみの深い形になりつつある。

ケータイを開くとそこには「ビジネス情報」という世界

 Webサイトの上部が“一等地”ならば,ケータイの待ち受け画面も相当な一等地なはずだ。こうした待ち受け画面の使い方は,パーソナルな情報入手という側面がまだまだ強い。しかし,ケータイを開く(見る)だけで最新情報を得られるならば,利用法は個人にとどまらない。BtoCでの利用はもちろんだが,BtoBでも大いに活用できるインタフェースではなかろうか。

 待ち受け画面を企業向けにカスタマイズして使えるようにするサービスとしては,例えばソフトバンクモバイルが提供している「Bizフェイス」がある。待ち受け場面やボタンを企業向けにカスタマイズするほか,企業の管理者からの情報をテロップで表示させることもできる。従業員はケータイを見るだけで,特別な操作をせずに情報にアクセスしたり,待ち受け画面からメニューを選ぶだけで業務処理が行えるというわけだ。

 今後,こうした利用法の拡大を予感させるのが,ケータイ向け「ウィジェット」の登場である。ウィジェットは,もともとパソコンのデスクトップやアプリケーション上で動くツールを指していた。これがケータイの世界にも進出し,待ち受け画面で動くツールができるようになってきたのだ。KDDIでは最新の共通プラットフォームを採用した端末で動く「au one ガジェット」を提供。ミニゲームや電卓,メールなどのウィジェットをラインアップさせている。ヤフーもソフトバンクモバイルのケータイ向けに,「Yahoo!デスクトップ」(ベータ版)を提供している。ケータイ向けブラウザなどを提供するACCESSも,ウィジェットの開発を表明している。

 ウィジェットを企業がカスタマイズして導入できるようになれば,ケータイを開くなり見るなりするだけで業務情報を得られるようになる。社員への連絡や通達をテロップで流すこともあるだろうし,特定業務サーバーの情報を待ち受け画面に表示させて業務を効率化させるといった可能性もあるだろう。ノートパソコンを起動するよりも,ケータイでサイトにアクセスするよりも,ずっと素早く情報を知らしめることができるのがケータイの待ち受け画面だということに異論は少ないのではないか。

 もちろん,何に使えば効果があるか,セキュリティをどう保つかといったことはこれから考えなければならないポイントだと思う。それでも,「開いた瞬間からケータイが情報ツールであり業務ツールである」という世界は,ケータイをビジネスで活用する一つのステップになるのではないかと考えている。