「最終的には(各団体の)システム部門は広域連合にまとめることができれば、さらに効率的になるのではないかと思っています」――2008年2月29日に都内で開催された会合*で,西いぶり広域連合共同電算準備室の佐久間樹主査は,現在進めている基幹系システム共同化の進ちょく状況の報告をこう締めくくった。発言通りのことが実現すれば,将来的には各自治体からはシステム部門がなくなる,ということだ。

*「オープンスタンダード化支援コンソーシアム(OSAC)と電子自治体アプリケーション・シェア推進協議会による合同研究会」のこと(関連記事
 西いぶり広域連合は北海道南西部・西胆振(にしいぶり)地区の6団体(室蘭市,登別市,伊達市,豊浦町,壮瞥町,洞爺湖町)が設置した広域連合だ。6団体を合わせての人口は約20万人強。最も大きな室蘭市でも人口10万人を切るという中小規模の自治体の集まりである。広域連合とは「様々な広域的ニーズに柔軟かつ効率的に対応するとともに,権限委譲の受け入れ体制を整備」(総務省ホームページより)するための枠組みだ。

 今回は,6団体のうち室蘭市,登別市,伊達市,壮瞥町の4団体が,住民基本台帳や税,国保など主要業務のシステムの共同利用を開始した。オープン系システムによる基幹系システムの共同アウトソーシングとしては,この取り組みがおそらく全国初の事例である。

 広域連合は室蘭市内のデータセンターで共同システムを管理・運用する。各自治体が負担金を支払って広域連合からサービスの提供を受けるという形態だ。1月4日に共同化を予定している70業務のうち,まずは当初発注した45業務と2期目に発注した業務の一部が稼働を開始した。これまでのところ窓口業務などに大きな混乱も起こっていないようだ。残り2団体は合併でシステムを刷新したばかりといった事情などから,後から参加予定となっている。

 西いぶりの共同システムは,SOA(サービス指向アーキテクチャ)の考え方を取り入れた設計が特徴だ。北海道と地元大手企業が出資した株式会社HARPが開発したプラットフォーム「HARP」を採用。「HARP」が持つ職員認証,税や宛名の連携といった共通機能を,コントローラを介して各アプリケーションとつなげる。個別アプリケーションでは共通機能部分の開発が不要となるため,低コストでの開発が期待できる。また「HARP」の仕様が公開されていることから,アプリケーションの調達で競争環境を保ちながら業務システムの連携が可能となる。

 「基幹系システムの共同化」「SOAの考えを取り入れた共通基盤の導入」という二つのチャレンジを西いぶり広域連合は行ったことになる。その成否は,企画段階から多くの自治体関係者の注目を集めていた。これまで基幹系システムの共同アウトソーシングについては,効果は見込めるものの「本当にできるのか」「実績がない」ということで,各自治体とも「総論賛成・各論反対」という状況だった。今回の「ひとまず無事稼働」という結果は,財政難・人材難に苦慮する中小自治体に問題解決の一つの道筋を示したと言えるのではないか。

複数自治体のシステム部門そのものを一元化

 ひとまずシステムは無事稼働した。今後の注目は,やはり「3市1町のシステム部門」としての西いぶり広域連合の役割についてであろう。

 3市1町が基幹系システムの共同化に踏み切った要因は主に4つある。(1)コスト(主に運用・改修コスト),(2)モノ(庁舎の老朽化),(3)業務(納付書など大量出力業務を集約・共通化したい),そして(4)ヒト(小さな自治体がそれぞれで専門的な職員の確保は難しい)である。

 (1)はシステム共同化でコスト削減を図る。(2)に関しては,共同化できない各自治体のシステムも,同じデータセンターでハウジングしていく方針だ。(3)については,既に大量印刷や封入封緘のアウトソーシングについて共同調達を行う体制は整っているという。

 では,本稿の本題にもかかわる「(4)ヒト」の問題についてはどうか。西いぶり広域連合では,まず手始めに共同調達を推進していく。2008年度は,ネットワーク機器の保守,ソフトウエアのライセンス契約,各団体の業務用パソコンの調達,各団体が自前で持っている光回線網の保守について一元化を検討する。例えば,ネットワーク機器については各団体の庁内にある機器を広域連合で一括で契約し,管理やSEの工数を圧縮することでコスト削減の交渉を行う。セキュリティソフトについても広域連合で取りまとめ,ライセンスの発注単位を増やすことで価格交渉をする方針だ。

 その先にあるのが,システム部門の広域連合への集約である。基幹系システムの共同化は行ったが,各市町にシステム部門はまだ残っており,庁内のネットワーク,地域情報,新しいシステムの企画などの仕事を行っている。こうした業務も広域連合にまとめていこうというわけだ。

 もちろん,一筋縄で実現するような話ではない。当然,職員にはITに関する専門性が求められる。人事制度を見直す必要が出てくるだろう。「自治事務の独自性はどうなるのか」といった根本的な議論も沸き起こるだろう。一方でITガバナンスのレベル向上やコスト削減といった側面,つまり多くの自治体のシステム部門が直面している問題の解決には効果が大きそうだ。

 あくまでも中長期的な構想であり,まだ具体的な移行計画があるわけではない。だから,西いぶり広域連合に参加する自治体からシステム部門がまったくなくなってしまうかどうかは分からない。ただ,これは単なる机上論ではなく,業務改革の現場から出てきたプランである。これからの自治体IT部門のあり方として十分検討に値するのではないか。民間企業のシステム子会社の事例を研究することで有益な示唆を得られるかもしれない。

 西いぶり広域連合の取り組みは,自治体のシステム部門のあり方についての新しい潮流を生み出す可能性がある。これからも注目していきたいと考えている。