先日,何気なくITproを見ていると,刺激的なタイトルを持つ,とある記事が目に止まった。ずばり,そのタイトルは「できないことを約束しないでほしい,メーカー系のSIerが一番頼れる」---。記者は最初,「メーカー系は他よりも優れる(ユーザー系と独立系はメーカー系よりも劣る)」という意味かと思ってしまったが,中身を見ると「そういうことだったのか」と,思わず,その新たな視点に感動した。

 誰が一番最初に言い出したのかは定かではないが,ソフトウエア・サービスをユーザー企業に提供するシステム開発会社(SIベンダー)には,(1)メーカー系,(2)ユーザー系,(3)独立系と,大きく3つの分類がある。本業が何かということや,親会社/関連会社の業態などによる分類だ。この中でメーカー系のSIベンダーとは,富士通,NEC,日本IBM,日立製作所といった,経済産業省の業種区分で言うところの「製造業」(メーカー)の系列のことである。メーカー自身がSIベンダーであるし,メーカーの名前を冠したSIサービス子会社もSIベンダーだ。

 メーカーという存在は,かつてメインフレーム(汎用機)とソフト開発がセット販売されていた時代から,システム開発の世界に君臨してきた。こうした経緯があるため,ハードウエアのサポート体制も整っているというのが,メーカーの強みとして長らくうたわれてきた。反面,「メーカーに頼むとそのメーカー製のハードウエアを強制的に買わされてしまう恐れがある」という悪いイメージもあった。

 時代も流れて1990年代に入ると,ハードウエアの時代からソフトウエア・サービスの時代へと移行していく。こうした時代に業績を大きく伸ばしたのが,コンサルティング会社などの業務ノウハウで勝負する会社である。そんな中,メーカー各社もまた,ソフト・サービス事業者としての色を濃くしていった。

 それでも,少なくとも記者の目から見れば,メーカーのSE(システム・エンジニア)は,良くも悪くも,従来通りの“技術者集団”としての性格を残している。業務ノウハウ方面に大きく振れることはなく,SEの仕事の中核である「設計」を主に提供し続けているように思う。要件定義やプロジェクトマネジメントだけを手がけて設計などの作業を他社に丸投げするといったことはせず,メーカー自らが基本設計や詳細設計などの仕事を手がけているイメージだ。

 どう捉えるかは人によって違うと思うが,システム構築を依頼した会社が設計までしっかりとやってくれるというのは,記者の目から見れば「地に足の着いた,健全で真面目な信頼できる会社」ということになる。これは職人に共感しリスペクトしている記者にとっては最大限の賛辞である。

 このように,メーカーのSEに一目置いている理由の1つは,記者のかつての経験によっている。要件定義などの上流工程だけを手がけるSIベンダーに在籍していた記者にとって,ともに働いていた設計担当メーカーのSEは,性能やトラブルなどの相談を簡単に解決する,技術における“スーパーマン”だったのだ。経験上,「メーカーは奥が深い」と心底思っているのである。仕事として手がけているかどうかは別問題として,凄腕プログラマが多そうなのもメーカーである。

 さて,冒頭の記事は「メーカー系は他よりも優れる」という内容ではなく,別のことを示していた。そして記者は感心してしまった。そういう視点もあるのだな,と。それは「メーカー系SIベンダーは,メーカーの業務ノウハウに詳しい。よって,メーカーを本業とするユーザー企業は,メーカー系SIベンダーに発注するとうまくいく」というもの。「金融業に強い」とか「流通業に強い」とかいうのと同様に,「製造業に強い」というのがある。製造業には同じ製造業にしか見えない何かが見えている,ということであろう。“メーカーはメーカーの業務に詳しい”---。メーカーが,その技術だけではなく,業務ノウハウを買われる。これは,記者には新鮮な視点だった。