クライアントにも細分化のニーズ

 サーバーだけでなくクライアント(パソコン)分野でも,.NET Frameworkに細分化を迫る動きが生じている。

 そもそも,「軽量なパソコン」「軽量なOS」を求めるユーザーの声は,サーバー分野よりもクライアント分野で強い。しかも2008年3月3日には,米IntelがMID(モバイル・インターネット・デバイス)用のx86プロセッサである「Atom」を発表している。これによって,価格も重量も「軽量」であるパソコンの供給や需要が,一気に拡大するはずだ(関連記事:インテル、新CPUブランド「Atom」を発表)。

 MIDを筆者なりに表現するなら,「価格もサイズも携帯電話機並みになったパソコン」である。Atomのトランジスタ数は4700万で,これは2000年にリリースされたPentium 4の初期モデルの規模(トランジスタ数4200万)に匹敵する。少なくとも4~5年前の標準クラスのパソコン性能が,Atomを搭載するMIDで実現するのではないかと筆者は期待している。

 パソコンの低価格化は長らく「同じ価格でより性能の高いハードウエアが購入できる」ということだった。パソコンの最低価格は6万~7万円が限界で,2万~3万円のパソコンはあるにはあったが,決して主流にはなれなかった。

 しかし今年,IntelがAtomを出荷することで,「価格も重量も軽量なパソコン」の供給体制がいよいよ整う。そして「軽量パソコン」に対するユーザーの需要が強いのは,台湾ASUS Techの「Eee PC」に対する反応を見れば明らかだろう。

Silverlightを主力にできるか?

 今年から来年にかけて,MIDのような「価格も重量も軽量なパソコン」がブレイクする可能性がある。その一方で,マイクロソフトの主力製品である「Windows Vista」や「.NET Framework 3.5」が,「軽量パソコン」に向いているとは言いがたい。

 ご存知の通り,Eee PCで採用されたOSはLinuxやWindows XPである。またIntelの社長兼CEO(最高経営責任者)であるPaul Otellini氏は,2008年1月の「2008 International CES」基調講演で,MIDに向いたOSやアプリケーション基盤として「Adobe AIR」を推奨したほどである(関連記事:【CES2008】「Adobe AIRでOSを問わない開発が実現する」と「Intel」のCEOが宣言)。

 つまり現在,サーバーコアという新しいOSの形状に見合った.NET Frameworkが求められているように,軽量パソコンという新しいハードウエアに見合ったOSと.NET Frameworkが,マイクロソフトに求められている。筆者はその回答がそろそろ,マイクロソフトから出てくるのではないかと考えている。そのお披露目の場が,3月5日に開幕する「Microsoft MIX 08」である。

 筆者が想像する最もラディカルなプランは,軽量パソコンにおける.NET Framework搭載の断念と,「Silverlight」の「格上げ」である。

 そもそも.NET Frameworkは,サーバー・アプリケーション分野では普及が著しいが,デスクトップ分野での存在感は,依然としてゼロに近い。OS軽量化のために.NET Frameworkを取り外したとしても,「軽量パソコンで.NET Framework用アプリケーションが使えなくなった」と困るユーザーは,そう多くないはずである。

 しかし,.NET Frameworkを取り除くと,軽量パソコンにおけるアプリケーション実行環境がWin 32だけになってしまう。それを補うために,今はWebブラウザ上でしか動作しないアプリケーション実行環境の「Silverlight」をデスクトップに移植し,デスクトップ上でSilverlightが動作するようにすればいい。

 Silverlightはもともと,「WPF/E」(EはEverywhereの略)という名称であり,WPFのサブセットとして開発された。しかし,アプリケーション実行環境としての人気は,Silverlightが「兄貴分」のWPFをしのいでおり,開発者からの注目度も高い。しかもSilverlightのライバルである「Adobe AIR」は,Webブラウザだけでなくデスクトップでも利用できる。

Silverlight格上げの兆しは2007年10月にあった

 軽量パソコンにおける「.NET Framework搭載断念」はともかく,Silverlightのデスクトップ移植の可能性は高いだろう。実はMicrosoftは2007年10月に,WPFを強化する「Acropolis」というプロジェクトを停止している。Acropolisは,業務用クライアント・アプリケーションの開発を容易にするソフトウエアであった(関連記事:【TechEd 2007】マイクロソフト製の業務用ソフト開発コンポーネント群「Acropolis」が登場)。

 また2007年11月には,当初リリースされる予定だったSilverlingtの次期バージョン「Silverlight 1.1」が「Silverlight 2.0ベータ」に改められ,Silverlightの「次期正式版」は,機能を強化した「Silverlight 2.0」として,2008年後半にリリースされることが発表されている(関連記事:MS,「Silverlight」のDRM対応を延期)。

 これらは,もともとサブセットだったSilverlightを,WPFに変わる主力デスクトップ・アプリケーション実行環境にする動きだと考えられるだろう。

3次元CG分野では,既に.NET Frameworkは細分化済み

 Windowsにおける3次元CGアプリケーション実行環境に眼を移すと,すでに.NET Frameworkの細分化は始まっている。ゲーム版の.NET Frameworkである「XNA」が存在するのだ。

 XNAの特徴は,Windows XP/VistaとXbox 360のクロス・プラットフォームであるということ。つまり,XNA用に開発したアプリケーションやゲームは,WindowsとXbox 360の両方で動作する。XNAとSilverlightは,クロス・プラットフォームという点でもよく似ている。

 筆者の予想ではあるが,今後.NET Frameworkは,現在の.NET Frameworkを引き継ぐ「フルセット版」以外にも,軽量サーバーに特化した「サーバーコア版」,Webと軽量デスクトップに特化した「Silverlight」,3次元CGとゲームに特化した「XNA」の少なくとも4つに細分化するのではないだろうか。

 そして従来の.NET Frameworkは,ライバルのJavaがそうなったように,「アプリケーション・サーバー用途に特化した開発/実行環境」に落ち着くのではないかと思っている。