2007年の秋以降,筆者が最も興味を抱いているのが大判プリンターに関する話題である。もともとページプリンターやプロジェクターを中心に記者活動を続けてきたのだが,昨秋,ある記事を企画した際に大判プリンターを評価する機会を得た。大判プリンターを借りて評価するのは,生まれて初めて体験。ライター氏の協力を得ながら試しにポスターを刷ってみて,物理的に大きいことが迫力を持って訴えかけてくるということを知ってしまったのだ。

 今回,記者の眼への執筆という機会を得たので,あまり取り上げられることのない大判プリンターについて語ってみようと思う。

活躍の場をじわじわと広げる大判プリンター

 みなさんのオフィスや家庭で見慣れたプリンターといえば,小型のものならA4判,大きいものでもA3判に対応した製品ではないだろうか。もし,近くに大きなプリンターがあったとしても,それは給紙容量やソーターなどが充実した機種で,印刷できる最大サイズはA3判くらいまでではないだろうか。そう,大判プリンターは一般的なオフィスでは,あまり見かけない製品なのだ。大判プリンターとは,小さくてもA2判,大きいものではB0判あるいはそれ以上のサイズを印刷できる,ポスターなどを作るための特殊なプリンターである。

 大判プリンターは印刷方式として,一般にインクジェット方式を採用する。この点では,家庭向けに普及している一般的なプリンターと同じである。家庭用プリンターと異なるのは,数多くのノズルを搭載したヘッドを搭載している点。複数のノズルを使って,一気に印刷できるのだ。つまり,用紙が大きくなっても高速で印刷できるように設計されている。もちろん,画質を高める技術も,最先端のものを投入している。

 これまで大判プリンターが活躍してきたのは,建築や機械設計などのCAD分野,ポスター印刷など比較的少部数の商業印刷といった領域だ。ただ,この領域はじわじわと広がっている。今後の新たな成長分野として各プリンターメーカーが注目しているのは大きく2つ。一つは美術印刷。もう一つは,もっと一般的な用途での利用拡大だ。

 美術印刷では,高精細な印刷が可能なインクジェットの特質を生かし,絵画の複製などに利用される。絵画は温度・湿度面でシビアな管理が必要で,保存を考えれば展示には供しにくい。そこで,オリジナルは保存に適した環境に保管し,大判プリンターで作成した複製を展示に使う。絵画には,大型のキャンバスが用いられているケースが少なくなく,大判プリンターでなければ物理的な複製が難しい。国内の大判プリンターメーカーは,キヤノン,セイコーエプソン,日本ヒューレット・パッカードの3社だが,各社とも各地の美術館などと提携し,美術作品のデジタル化を進めている。

 もう一つの一般的な用途は,ちょっとイメージしにくいかもしれない。一般企業や小売店,飲食店や学校などで日常的に使われる掲示物の印刷に,もっと大判プリンターを浸透させようと考えているのだ。通常,オフィスにあるプリンターで印刷すると,B4判あるいはA3判の印刷になってしまう。手に取ると大きいと感じるA3判も,壁に張ると意外に目立たない。外部の業者に印刷を依頼して大判の掲示物を作ると,少部数ではスケールメリットが発生せず,どうしても1枚当たりのコストが高くなってしまう。プリンターメーカーはこういった領域に,大判プリンターを浸透させようとしているのだ。

 最も効果的だと思われるのは飲食店や小売店。例えば,店頭のノボリを印刷するのに大判プリンターを使う。また,店内掲示のポスターで特定のメニューや商品をアピールしたり,厚手のボード紙を使った季節メニューの掲示を手軽にできる。こうしたお店に限らず,大きな掲示物を必要に応じて印刷できるメリットは至るところにありそうだ。例えば,プレゼンの際にアピールしたい図表やグラフをホワイトボードに張り出しておく。このとき,A3判の用紙だとアピール力という点で心許ない。研究セクションや学校であれば,発表や教材の掲示に大判印刷が必要なことも多そうだ。

A4判とはかけ離れた迫力が感じられるA1判ポスター

 大判印刷はなじみが薄いだけに,大きい掲示物がどれだけの意味があるのか,すぐにはイメージしにくいだろう。だが,実際にA1判のポスターを目の前にしてみると,いつも見慣れたA4判とはかけ離れた迫力を感じることができる(参考記事)。面積が8倍と頭の中では分かっていても,印象ではそれ以上の大きさを感じるのだ。印刷時間も短い。写真を使わず,ベクターデータ中心のグラフィックスであれば,30秒程度でA1判を印刷できてしまう。

 今回,個人的な“プチブーム”で大判プリンターを取り上げたが,この分野が今後伸びていくことは間違いない。急拡大は難しくても,じわじわと浸透する可能性は高い。PC Onlineでは大判プリンターも含めて,ビジネスの現場での印刷・表示に関して,導入から使いこなしまで,幅広い情報をまとめた「ビジネスプリンター&プロジェクター徹底活用」というテーマサイトを設けている。こうした出力機器なくして,ビジネスを円滑に進めることはできない。興味を持たれた方は,ぜひ,このテーマサイトものぞいてみてほしい。