情報システムは「見た目」である――。こんなテーマの特集を執筆しながら、ふと我に返った。これは自分自身の仕事にも、全く同様に当てはまる、と。

 「読んでもらえれば分かります」。記者という職業にとって、これは「禁句」である。いくら素晴らしい内容の記事でも、読んでもらえなければ無価値。だから記者は、見出しに最大の努力を払わなければならない。読者が雑誌や新聞をめくって、パッと目に入ってくるのは見出しだからだ。記事レイアウトの見やすさ、図や写真の的確さも欠かせない要素だ。

 読んでもらえて初めて記事に価値が生まれるのだとすれば、記事の「見た目」がその価値を左右すると言える。

 こう言っておきながら、自身を振り返ってみると非常に心許ない。もちろん気を遣ってはいたつもりだが、まだまだ足りないと思い至った次第である。

「使ってもらえれば」は禁句

 実はほかにも、これと同じ感覚にとらわれたことがあった。Windows Vistaの取材をしていたときだ。企業ユーザーにとってVistaの魅力は何か、マイクロソフトの担当者とあれこれ言葉を交わしていると、この担当者が言った。「とにかく、使ってもらえれば絶対にVistaの良さは分かってもらえますから」。

 実際、Vistaのデキは良いのだろう。複数のシステム・インテグレータから、Vistaの内容を高く評価する意見も聞いた。「OSとしての基本的な質が良い」「検索機能など、細部の使い勝手が充実している」などだ。

 でも「使ってもらえれば」というのは、やはりユーザーに対して言ってはいけない「禁句」だと思う。「使ってみなければ分からない」とも言えてしまうからだ。

 Vistaはユーザー・インタフェースを刷新するなど、「見た目」にとてもこだわったOSである。にもかかわらず、マイクロソフト担当者から「使ってもらえれば」発言が出てくるということは、一新したユーザー・インタフェースがうまく効果を発揮していないことの表れではないか。

システムの「見た目」は立ち居振る舞い

 「見た目」が重要であるのは、情報システムだって同じだ。いくら最新のIT製品の機能を駆使し、素晴らしい情報を提供したとしても、現場の利用者に使ってもらえなければ、そのシステムが価値を生み出すことはない。考えてみれば当たり前のことだが、これに気付いていないIT部門は、意外に多いのではないだろうか。

 ここで言う「見た目」とは、立ち居振る舞いと言い換えてもいい。画面の見栄えや操作のしやすさはもちろん、必要な情報をタイムリーに見せたり、快適に応答したりする。

 これと対極にあるのが、一般的なWebシステムだ。セキュリティの向上や運用コストの削減などを狙って、クライアント/サーバー(C/S)システムをWeb化する流れは、IT部門にとって必然。しかし、使い勝手が落ちてしまったことに利用部門から反発を受けたり、そもそも移行自体をためらったりしているケースは、多いのではないだろうか。

 しかし、「見た目」に優れたシステムを作るためのITが、ここへきて急速に充実し始めている。RIA(リッチ・インターネット・アプリケーション)とも呼ばれる、Webとクライアント/サーバーの利点を兼ね備えた開発技術である。

 代表例が「Flash」と「Ajax」だ。動的なWebページ作成技術としての側面が強かったアドビシステムズのFlashだが、企業情報システムのRIA用途として広く使われている。Ajaxも、米グーグルの地図検索サービス「Google Maps」などで注目を集めて以来、あっという間に世界中のユーザー企業やインテグレータに支持を拡大した。

 マイクロソフトもFlashなどに対抗するべく、RIA技術の拡充を急ぐ。2007年9月には、Webブラウザのプラグイン「Silverlight」を公開。08年中には、GUIの開発をより容易にした新版が登場する予定だ。RIAの“老舗”と言える「Curl(開発はカール)」や「Biz/Browser(同アクシスソフト)」も、企業情報システムでの採用を拡大している。

実践したい「見た目」重視のシステム作り

 RIAを活用して「見た目」重視のシステム作りを長年実践している1社が、全日本空輸(全日空)だ。同社は04年、Flashを使って開発した一般消費者向けの航空券予約Webサイトを公開。表示内容の分かりやすさと利用者の操作性の両立を目指してきた。06年10月からは、座席予約機能を新たにFlashで開発し、同サイトに追加した。

 同社の山本昇 営業推進本部営業システム部主席部員は、Flashを採用した理由を、「多くの情報を1画面で簡潔に表示し、なおかつ利用者の利便性を高める手段を模索した結果」と話す。「最初にFlashを採用した04年時点に比べて、Flashの普及率はさらに高まっている。HTMLも選択できるようにしているが、Flashのページの利用率が9割に達していることから考えると、利用者に受け入れられているのではないか」(同)。

 全日空の取り組みは、ほんの一例である。記者は日経コンピュータ2月15日号の特集の取材を通して、「見た目」重視のシステム開発に取り組み始めた企業を訪問する機会を得た。いずれも、利用者に快適にシステムを使ってもらい、その効果を引き出そうと心血を注いでいる企業ばかりだ。読者の方々も今一度、自社のシステムの「見た目」を点検してみてはいかがだろうか。