にわかに注目されはじめたグリーンIT。データセンターやサーバーを省電力化する取り組みが活発になってきた。ユーザー企業も,環境対策の1つとして,IT機器の省電力化に眼を向け始めている。

 この動きの中でネックになりそうなのが,デスクトップ型のパソコンである。企業システムのクライアント端末としては,ノート型パソコンや,最近導入事例が増えてきたシンクライアントなどと比較すると,環境性能で大きく見劣りがするからだ。

 このままいくと,企業からデスクトップPCは姿を消してしまうかもしれない。

サーバーよりはパソコンのほうが手を入れやすい

 グリーンITで話題になるデータセンターやサーバーの省電力化は,実現するにはそれなりのコストと時間が必要だ。一般に,サーバーなどのIT機器の買い換えサイクルは3~5年である。ハードウエアの移行にともなう作業や,アプリケーションの改修などに,ある程度の手間がかかる。データセンターやサーバー室ともなると,改修や移転はもっと長いサイクルになる。中長期的な計画に基づいて取り組むべきだろう。

 それよりも,もっと手短に省電力化に取り組めそうなのが,パソコンである。サーバーなどに比べると,移行のハードルは低い。

 米ガートナーの調査によると,企業が所有するIT関連機器の消費電力のうちパソコンとそのモニターによるものは,39%を占めるのだという。これは,サーバーの23%,電話の15%を大きく引き離して第1位である。台数が多いことを考えれば,うなずける調査結果ではあるが,筆者が考えているよりも高い割合だと感じた。ITの省電力化を進めるうえで,ここに手を入れないわけにはいかないのだ。

 また,米フォレスタ・リサーチの調査によると,世界で使用されているパソコンの総出荷台数は,2008年末に10億台を超える見通しだという。これだけの台数が省電力化されるのであれば,環境対策としても大きな効果が期待できる。

 そこで危うくなっているのが,デスクトップ型パソコンの立場である。パソコンを省電力化するためにハードウエアを見直すなら,ノートPCやシンクライアントを選択したほうが,より消費電力を削減できるからだ。

1015kWhがノートPCだと59kWhにまで削減

 具体的な数値を示そう。米インテルの調査によると,Pentium Dのプロセサを搭載したデスクトップPCとCRTモニターの組み合わせを,Core 2 Duo搭載のノートPCに入れ替えたところ,年間の消費電力は1/17になったというのだ。

 にわかにはピンとこないかもしれない。もう少し具体的な数値を示そう。Pentium DのデスクトップPCとCRTモニターの消費電力を計測したところ,1015kWhだった。CRTモニターを液晶モニターに入れ替えてみた。すると,消費電力は938kWhに削減できた。次にパソコンをCore 2 DuoのデスクトップPCにしたところ,655kWhになった。ここまでで,約35%の消費電力削減である。

 さらに,Windowsの電源オプションを使って省電力設定を実施。すると消費電力は229kWhになった。そして,Core 2 Duoのデスクトップ型パソコンと液晶モニターを,Core 2 DuoのノートPCにしたところ,消費電力は59kWhだった。

 これらはあくまで,米インテルの調査における実測値であるため,すべてのケースでこれだけの省電力効果が発揮されるわけではない。それでも,ノートPCの環境性能が高いことは実感できるのではないだろうか。

 デスクトップPCには,性能や拡張性が高いという長所がある。環境性能だけでその存亡を論じるのは無理があるのは確かだ。しかしノートPCの性能や機能が向上し,価格面でもそん色がなくなってきた現状では,こと企業が利用するクライアント端末という用途に限れば,デスクトップPCを採用する理由が見あたらなくなりつつあるように,筆者には感じられるのだ。

シンクライアントも迫る

 背後からは,シンクライアントという,環境性能でもセキュリティでもデスクトップPCを凌駕する次世代の企業向け端末が追いかけてきている。導入には,パソコンよりも大きなコストがかかるほか,システム運用体制の見直しやアプリケーションの改修,業務の変化なども伴う。しかし,セキュリティの向上や,クライアント端末管理の負担軽減が見込める。

 ハードディスクなどを搭載しないため,消費電力も小さい。サン・マイクロシステムズの「Sun Ray170」は54Wと,デスクトップPCの半分程度である。またNECの資料によると,デスクトップPCと液晶モニター20組が4300Wの電力を消費するのに対し,同社の仮想PC型シンクライアント端末と液晶モニター20台,サーバー設備を合計した消費電力は1840Wであるという。

 デスクトップPCにも,生きる道がないわけではない。まずは,Windowsの電源設定を徹底することだ。コントロール パネルの「電源オプション」を使って,パソコンを使っていない時間帯に省電力モードに移行するよう設定する。業務部門に徹底させるのが難しければ,Active Directoryのローカル ポリシーを設定し,強制的に省電力設定を施す手もある。

 インテルの調査結果を見てもわかるように,これだけでも消費電力は大幅に削減できる。富士通が,あるグループ企業の夜間におけるパソコン稼働状況を調べたところ,34%が電源を入れたままだったという。近い実態の企業は多いのではないだろうか。

 「地球温暖化対策推進法」の改正案で一般のオフィスに二酸化炭素(CO2)排出量規制を設ける動きもある。今後は企業の情報システム部門も,「ITの環境対策」を少なからず意識しなくてはならなくなるだろう。情報システム部門が環境対策にどこまで取り組むかで,企業向けデスクトップPCの行く末は決まるのかもしれない。

■変更履歴
世界のパソコン台数に関する記述を修正しました。お詫びして訂正します。本文は修正済みです。 [2008/02/13 12:50]