ITproにコラムを定期的に投稿し始めたのは確か2002年からであり,今年で6年目に入る。丸5年間の総決算をする積もりで,「ITpro宣言!」という文章を先日寄稿した。ところがITpro宣言と銘打ってあるにも関わらず,その文章をITproのWebサイト上で読むことはできない。

 持って回った書き出しになったが,「ITpro宣言!」はITproMagazineという紙媒体の巻頭に掲載されたものである。ITproMagazineの第1号,しかも巻頭という有難い場所をもらったので,いつも以上に気合を入れて書いた。ただし,与えられた場所は1頁,書ける文章の量に制約があった。色々考えたあげく,「ITproはproducerであり,project managerであり,programmerである」といった断定調で全文を書き通した。ITpro編集部は,希望者の方にITproMagazineを無償でお送りしている。関心がある人はこちらから申し込んで頂きたい。

 「ITpro宣言!」で一番言いたかったのは,produceないしproducerが重要,ということである。ITは計算機であり,効率化の道具であり,管理の手段だが,一方で新しいビジネスやサービスを創出する基盤でもある。2008年は新しいものを積極的に創り出す年であって欲しい,という思いを込め,柄にも無い宣言文を起草してみた。

 ITproMagazineの発行に先立って年初には,ITproサイトに「30歳から45歳が活躍する方法」という,これまた妙な題名の原稿を公開した。こちらも,新しいことを企画し,取り組もうという呼びかけであり,やはりproducerの重要性について言及している。

 「なぜ突然,煽り出したのか」と首をひねる読者の方も多いだろうが,年明けの1月でもあるし,お許し頂きたい。ただ,「新しいこと」「新しいもの」と連呼した場合,一体それは何かという疑問が残る。本来,何が新しいかは,読者の方々が置かれた状況によるわけで千差万別と言える。一人ひとりが状況を判断しつつ,自分なりの夢を描き,新しいことを考えていく,それが何よりも重要だと思う。

 とはいえ,「新しいことをやりましょう」と繰り返すだけでは芸がない。多くの方にとって共通の目標となるものがあるなら,それを提示したい。こう考えて年末年始,自問自答した結果,ある言葉にたどり着いた。

今年の重要語は「信頼できる(Trusted)」

 それは「信頼できる(Trusted)」である。信頼できる製品,信頼できるサービス。それらを支える,信頼できる情報システム。そのシステムの担い手となる,信頼できるシステムエンジニアやプログラマ。信頼できる組織あるいは団体の条件は,これらを抱えることである。昨年,プロジェクトを成功させるには,プロジェクトマネジャやメンバーが頑張るだけではなく,「できる組織」が必要,という文章を書いた(「プロジェクトマネジャは独りぼっちじゃない」)。できる組織とはすなわち,信頼できる組織である。

 ここで,「信頼できる」という言葉が,「成果を出す」という攻めの意味と,「間違いをしない」という守りの意味と,両方を持っていることに注意を促したい。ここ1,2年,攻めと守りの両方を意味する,分かりやすい言葉はないだろうかと探していた。ITの世界があまりにも「守り」中心になっており,その風潮に異を唱えようと思ったからだ。「守り」とは何を指すか,本欄読者であれば言うまでもない。

 異を唱えるにしても,「攻めのIT投資が必要」「既存システムの保守ではなく,戦略的な新システムの準備を」といった主張は空回りする。喫緊の課題である守りが優先されてしまいがちだからだ。攻めつつ守る,ということを主張するには,両方の意味を包含した言葉がどうしても必要になる。そのために「信頼できる」はよいと考えた。攻めつつ守る姿勢を取り入れてこそ,信頼を得ることができる。

 一人で悶々と考えていると独りよがりになりかねないから,年末年始に会った人達に,2008年の重要語として「信頼できる(Trusted)」はどうでしょう,と聞いてみた。多くの方は賛同して下さった。ただ,「2007年は“偽”の年であった」ので「2008年は改めよう」という主張と受け止めた方が多かった。本意は少し違う。何かを偽って仕事を続けるのはよろしくないが,かといって「とにかく法律を守ればよい」「正直であればそれでいい」といった,守り一辺倒の姿勢に陥ってしまうと,成果を上げにくくなり,結果として信頼を失ってしまう危険がある。法や規制は守るべきものだが,仮に悪法や間違った規制があるなら,それらを守りつつも,法や規制の改革提言という攻めの姿勢を打ち出さないといけない。