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著作権論争をめぐるモヤモヤの原因を考えた

2008/01/23
神近 博三=ITpro

 先週,著作権関係のニュースが何本か飛び込んできた。まず2008年1月15日,著作権利者の団体である「デジタル私的録画問題に関する権利者会議」がセミナーを開催し,著作権法における私的録音録画補償金制度の維持を求める運動の統一標語「Culture First」を発表した(関連記事)。1月16日には著作権問題に関する諸活動を行っているユーザー組織「インターネット先進ユーザーの会」(MIAU)が,「ダビング10に関する勉強会」を開催(関連記事)。続く17日には文化審議会の著作権分科会私的録音録画小委員会の事務局が,私的録音録画補償金を廃止していくことなどを盛り込んだ最終報告の骨子を提案した(関連記事)。

 著作権については現在,私的録音録画保証金制度,コンテンツのデジタルコピーの制限回数を現在のコピーワンスから緩和する「ダビング10」,あるいは著作権保護期間の延長問題など,様々な議論が進行している。筆者も保護期間延長問題のシンポジウムなどを取材したことがある。そこでは,著作権の強化・拡張を主張する側と制限(あるいは現状維持)を主張する側双方の意見を聞くことになるのだが,そのたびに,胸の中に何かモヤモヤとした思いが残った。

 著作権の制限を主張する側は,それが著作権法の本来の目的である「文化の発展に寄与する」(著作権法第一条より抜粋)に適(かな)うとする。その主張は,コンテンツ流通業者のビジネス上の裏事情が透けて見える,あるいは「著作者の遺族の生活を長期にわたって保護したい」という強化・拡張派の主張よりも,はるかに説得力があるように感じられる。

 映画ファン,音楽ファンの一人としても,コンテンツを安く入手できるに越したことはない。それに,商品として流通しておらず,YouTubeのような動画配信サイトでしか視聴できないコンテンツも多い。それらを「著作権法を厳格に運用せよ」という金科玉条のもと,取り上げられてしまうのは少々辛い。

とりあえず著作権法が抱える矛盾を学ぶ

 それでも,モヤモヤ感が残ったのはなぜか。最近になって気づいたのだが,どうやら筆者は無意識のうちに,著作権を普通の財産と同じように考えており,「文化の発展に寄与」するためとはいえ,個人や法人の「財産権」を制限することに引っかかりを感じていたようなのだ。ネットの掲示板などでは,著作権の強化・拡張を主張する著作権者や企業の強欲さを非難する発言を見かけることがある。しかし,他人は知らず,少なくとも筆者にとって“欲”は魂の中心にある。だからこそ他人に向かっても,財産を極力活用したいという欲の強さを非難するのは気が進まなかった。逆に「著作権を制限せよ」は,「その方が自分のトクになる」ための主張のような気がして,積極的に支持を表明することに後ろめたさを感じていたのだ。

 では,著作権は土地や金銭といった普通の財産とは違うのか。違うとすれば,どのように違うのか。土地や金銭の所有権は,相続や他者への譲渡で永続するのに,著作権の保護期間に制限があるのはなぜか。著作権者が著作物の利用方法に制限を加えるのが気に入らなければ,ユーザーは別の著作物を利用すればよいのではないか(その意味で,コピー回数などコンテンツの利用方法を一律に制限して,選択の余地をなくすことは問題が多いと考える)。

 今にして思えば,こうした根本的な疑問を残したまま強化・拡張派と制限派の双方の主張を聞いても,モヤモヤ感が残ったのは当たり前だった。そこで最近,中山信弘氏の「著作権法」を読み進めている。著者の中山氏は文化庁文化審議会などの委員を多数務める,知的財産法の大御所である。

中山信弘著「著作権法」
中山信弘著「著作権法」

 同書は著作権法の教科書であり,判例などを引用しながら,著作権で保護される客体となる“著作物”,著作権の主体である“著作者”“著作権者”,さらに著作権の保護範囲や保護期間,著作隣接権,著作者人格権などを解説している。法律の素人が読むには,ちょっと重たい内容なのだが,デジタル技術の発展や著作物が経済的な利益を生み出すための経済材となる中で,現状の著作権法がいかに多くの矛盾を抱え込んでいるかを知る上で,非常に勉強になる。

 上記の,著作権と一般的な財産の所有権の違いについては,205ページに説明がある。物を対象とする所有権は「永久に存続しても,他の物は同じような物を製作・購入すれば済み,基本的には社会に対する悪影響は少ない」。これに対し,著作権は代替物を利用できないため「一定期間後には著作権を満了させて,情報利用の束縛を解くことが情報の豊富化に裨益し,文化の発展に資するという政策判断が存在する」とある。また,著作権法が物権法から多くの概念を借りているのは,単に便宜上のものであり,技術的に可能になれば,将来は対価請求権として著作権が再構成される可能性を示唆している。

 繰り返しになるが,同書は教科書であり,法律の解釈やそれがどのような歴史的経緯で成立したかを解説したものだ。それでも,著作権法の改正や立法について中山氏がどのように考えているか,言葉の端々から感じることができる。記者のアタマでは上記のモヤモヤを一気に吹き飛ばすことは難しそうだが,まずは「現状の著作権法はどのような矛盾を抱え込んでいるか」「解決すべき課題にはどのようなモノがあるか」という問題意識を持って,何回か読み返してみるつもりだ。

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