タイは,東南アジアで最も政府がオープンソースの振興に力を入れている国のひとつである。アジア各国政府が集まりオープンソースの振興を図るイベント「アジアOSSシンポジウム」も,第1回はタイのプーケットで開催されている。
タイ政府はどのような取り組みをしているのか。2007年11月に開催された,9回目にあたるアジアOSSシンポジウム,「AOSS2007(Asia Open Source Software Conference and Showcase 2007)」(関連記事)に出席したタイ政府関係者に話を聞いた。
科学技術開発庁や電力公社がOpenOffice.orgに移行
タイ国家電子・コンピュータ技術センター(NECTEC) Director Pansak Siriruchatapong氏 [画像のクリックで拡大表示] |
タイの電力公社EGAT内の,OpenOffice.org利用を呼びかける看板。EGATでは2009年までに社内の100%をOpenOffice.orgに移行することを目標にしている [画像のクリックで拡大表示] |
さらに「タイの電力公社であるEGAT(Electricity Generating Authority of Thailand)では,毎年新規に購入するPC約3000台すべてのオフィス・ソフトをOpenOffice.orgにしている。2009年までにすべてのPCのオフィス・ソフトをOpenOffice.orgにすることを目標としている」(Pansak氏)という。
多くの東南アジア諸国の例に漏れず,タイでもソフトウエアの違法コピーは深刻な問題だ。米国のソフトウエア業界団体BSA(Business Software Alliance)によれば,タイで使用されているソフトウエアの違法コピー率は約80%。世界平均の約35%を大きく上回る。そのため,オープンソース・ソフトウエアへの移行によって違法コピー問題の解決を目指している。
NECTECはOpenOffice.orgだけでなくLinuxのタイ語版(TLE)も開発している。また,eラーニング・ツールのLearnsquareもオープンソース・ソフトウエアとして公開している。
タイの学校にLinuxサーバーを設置する施策も進めている。「School Linux Server Project」である。2005年から開始しており,921校にLinuxサーバーを設置した。学校で使用するためのサーバー向けLinuxパッケージも開発している。LINUX School Internet Server(LinuxSIS)と呼ばれる。Webブラウザによる管理ツールでなるべく簡単に管理できることを狙って開発され,タイ語のマニュアルなどと合わせて配布している。
タイ語版ソフトを詰め込んだ“太陽”と“月"
Chantra」だ。「Suriyanはタイ語で太陽,Chantraは月を意味する」(SIPA VP Technical Research & DevelopmentのSanti Suraratana氏)。
Suriyanは,Linuxサーバーとサーバー上のミドルウエアやアプリケーションをパッケージ化したものだ。ChantraはOpenOffice.orgやFirefox,ThunderbirdなどWindows向けのオープンソース・ソフトウエアを収録したCD-ROMである。また,LinuxディストリビューションUbuntuのタイ語版を支援している。
SIPAが自ら開発しているオープンソース・ソフトウエアはSOA(サービス指向アーキテクチャ)に基づくアプリケーションである。「One Stop Services」は,金融のレガシー・システムとWebバンキング・アプリケーションをリアルタイムに連携されるアプリケーション。「Tourism collaborative Commerce」は旅行会社のシステムをリアルタイムに連携させるシステム。「eMarketplace for motorcycle spare part business」はバイクのスペア・パーツの電子商店システムだ。
「タイの人々は,ベンダーもユーザーもオープンソース・ソフトウエアは無料だと考えている。そうではなく,インストールやトレーニングのコストは必要なこと,ライセンス料を設定してビジネスをすることもできることを理解してもらうよう努力している」とSanti氏は語る。