日経コミュニケーションは,2007年12月15日号で500号を迎える。500号記念として,世界50都市の通信環境をまとめた特集記事を掲載している。その特集ではフランスのパリも取り上げている。

 パリの通信環境については,フランスにあるNICT(情報通信研究機構)パリ事務所の所長を長年務め,フランスをはじめとしたヨーロッパの通信事情,通信政策に精通している炭田寛祈氏にいろいろと教えてもらった。その際に聞いた,フランスでのNGNに対する考え方が実に興味深かったので,紹介しよう。

 NTTが提供するNGNで「FTTHが必須」,「フレッツ網の後継」ということが相まって,日本ではNGNがFTTHと表裏一体のサービスとしてとらえられがちだ。事実,そのように受け止めているユーザーも多いはず。

 しかしフランスでは,NGNはあくまでコア・ネットワークのことを指し,アクセス網とは切り離して考えるのだという。IP化したコア・ネットワークの部分をNGN,そして次世代の広帯域アクセス網については,「NGA」(next generation access)として明確に分け,別のものとして議論を進めている。

 欧州では,NGNのそもそもの目的は,コア・ネットワークのIP化によって低コスト化を実現し,さらに,さまざまな種類のアクセス網を透過的に接続できるようにすることだという。とくに後者に挙げたアクセス網の透過的な接続というのは,固定アクセス網と携帯電話網を統合するFMCを念頭に置いたものだ。

 またNGAについては,フランスでは何がなんでもFTTHにしようというのではなく,現行のADSLも含めて議論が進んでいる。実際,フランスの現行のブロードバンド回線は,ほとんどがADSLだ。では,日本に比べてアクセス網を利用したサービスが遅れているかというとそうではない。フランスでは,ADSLを利用し,地上波,多チャンネル放送,VODを含むIPTVサービスが300万以上のユーザーに利用されているという。

 炭田氏によると,フランスを含む欧州では,まずアプリケーションを用意してから,それが現行のインフラで提供できるかどうかをしっかり判断する。一方の日本は,具体的なアプリケーションはさておき,先端技術をいち早く取り入れることに重点が置かれることが多いという。

 必ずしもフランス流が正しくて,日本流が間違っているというわけではないだろう。それでも,フランスと日本のNGNに対する取り組みを比べてみると、フランスの方が地に足がついていると思えてしまう。今後,日本のNGNを見るとき,「NGNとアクセス網は切り離して考える」,「まずはアプリケーションを用意する」といったフランス流のアプローチが参考になるのではないだろうか。