携帯電話を購入するときの悩みがまた一つ増えた。これまで販売店が値引き原資として使っていた販売奨励金の一部を利用者に直接還元するコースを併用した,いわゆる「分離プラン」による販売が始まったからだ。店頭には高い「価格」が付いた新機種もある。しかしそれが,安いのか高いのかすら直感的に判断しにくくなった。

 KDDIは11月12日に「au買い方セレクト」の提供を開始した。同日以降に新規契約したり機種変更したりするすべての場合に(「ぷりペイド」サービスを除く),「フルサポートコース」と「シンプルコース」の2種類から選択して契約するもの。フルサポートコースはシンプルコースでの契約時よりも端末価格が2万1000円割り引かれ,月額の料金はこれまでの料金プランと変わらない。一方のシンプルコースは,端末代金には割引がない代わりに,月額基本料金が低廉な2つの料金プランを設定した。

 NTTドコモの利用者も11月26日から順次販売を開始した905iシリーズ以降,2種類のコースから選択して契約する必要がある。「バリューコース」と「ベーシックコース」の2種類で,ベーシックコースはバリューコースよりも端末購入価格が1万5750円安くなる。一方で,バリューコースを選ぶと月額基本料金がベーシックコースより最大で1680円安くなる。既存の端末には適用されないが,905iシリーズ以降の今後の新端末の購入時にはこの選択が必要になる。

 ソフトバンクモバイルは,すでに「新スーパーボーナス特別割引」を実施している。これは携帯電話の購入代金に対して,月々の利用料から一定の額を割り引くサービス。販売奨励金に相当する端末代金を支払う代わりに,毎月の利用料が減額される一種の分離モデルと言える。

複雑さが増し,高価格な印象も

 NTTドコモの905iシリーズが発売されたことにより,実際の店頭でも各社の分離プランによる販売が始まっている。

 先行したKDDIでは,順次販売を始めているこの秋冬モデルで4万円を超える表示がちらほらと見かけられる。これはシンプルコースによる契約の場合の価格で,フルサポートコースを選べば2万1000円の割引があるため2万円前後で新規購入や最新機種への機種変更が可能ではある。

 一方のNTTドコモ端末を見ると,11月末の東京の量販店では905iシリーズ(N905iμを除く)に一律で5万400円というバリューコース適用時の価格を掲げていた。こちらもベーシックコースを選べば,1万5750円の割引があるので,実際には3万5000円前後で入手可能とも言える。

 とは言え,「0円ケータイ」などと揶揄(やゆ)されることも多かった携帯電話の販売現場に,4万円や5万円といった価格が表示されるようになったのだ。これは大きな変化だ。5万円台といった価格は,携帯電話を購入する際のこれまでのユーザー感覚からすると,かなり衝撃的だと感じる。NTTドコモの場合は年明けから順次投入する下位グレードの705iシリーズがどのぐらいの価格設定になるかにも注目したいところだ。

何の価格・料金を支払うことになるのか?

 では,この4~5万円という“価格”は,どういった価格だろうか。これで端末を完全に買い切っているのかというと,そうでもなさそうだ。これまでに公表されている手数料額などから見ると,販売奨励金の一部が還元された価格と考えられる。

 実際のところ分離プランによる価格・料金の体系は,それ自体が非常にややこしい。何が端末価格の分で,どの料金割引が端末価格の支払いに対応する部分なのかもはっきりしていない。あえて明確な判断をさせないようにしているかのように思える。ユーザーから見た分かりにくさの一つの要因は,この不透明さにあると考える。

 NTTドコモの場合,奨励金モデルのベーシックコースだと,2年間の継続利用条件が付く。KDDIのフルサポートコースでも同様に,2年間は同じ端末を使うことが前提になっている。ということは,ざっと2年で奨励金に相当するコストを通信料金で回収していると見てよさそうだ。

 明確に奨励金相当額を料金割引に回すのならば,例えばすでに2年間を超えて同じ端末を利用しているユーザーには,その分の償却が終わったことにしてNTTドコモのバリューコースやKDDIのシンプルコースを適用できてもおかしくない。分離プラン導入後も,端末を買い換えない長期利用ユーザーからは奨励金相当額の回収をし続けるというのは,不公平感を与えないだろうか。

奨励金部分の完全な切り離しはできないのか

 もう少し踏み込むと,ハードウエアの価格とサービスの料金をもっと明確に分けたコースを提示できないのかとも思う。理屈の上では,ハードウエアを完全に買い切りにしたら,もっと安い通信料金の設定が可能になるというわけだ。

 一方,徐々にとは言え,SIMロックフリーでキャリアーの縛りがない端末も国内で登場してきている。こうした端末を使うユーザーは,相応の高価格で端末を購入し,その端末に対しては事業者からの奨励金を受けていない。にもかかわらず,通信料金には奨励金相当額を「継続的に分割後払い」する部分が含まれている。明確な切り分けが提示されないことにより,不要なコスト負担を強いられているとも言えるのだ。長期に渡り同じ端末を利用している人も同様である。

 どうせ端末価格は5万円まで来たのだから,ここはいっそのこと,完全な奨励金なしのプランを提示してもいいのではないか。端末を買うと7万円するけれど,基本料金はほとんど無料で使った分だけの低廉な支払いといったプランだ。これをすべてのユーザーが受け入れるとは思わないが,こうした割り切りによって透明性と公平性を確保する手段もあってよいだろう。

 せっかくの分離プランの導入が,ユーザーの混乱や価格・料金の不透明性を招くだけではもったいない。よりクリアーに「何を支払っているか」が見通せて,ユーザーにとっての選択の根拠が示されるようになったら,現状のコース内容の分かりにくさや選択の悩みが少しでも軽減されるのではないかと思う。