個人向けパソコンに対する,パソコンメーカーのサポートサービスは大きな転換期を迎えているのではないだろうか。筆者はそう感じている。理由はいくつかあるが,最近,特にそう強く思えることが立て続けに起こった。日本ヒューレット・パッカードとNECが,今までとは趣が大きく異なるサポートサービスを発表したのだ。

 日本ヒューレット・パッカードが2008年に始めるのは,個人向けパソコンを購入したユーザーに対するデータ復旧サービスである。ユーザーはパソコン購入時に定額で契約。すると,ファイルシステムの不整合やハードディスクの物理的な故障によってデータを読み出せなくなった場合に,データの復旧を試みてもらえる。パソコンメーカーが,このような個人向けサービスを提供するのはこれが初めてである。

 もちろんハードディスクの壊れ具合によっては,データを復旧できない場合もある。日本ヒューレット・パッカードによると,「経験上,90%程度が復旧可能」だという。日本ヒューレット・パッカードは,既に企業向けに同様のサービスを提供しており,これを個人向けパソコンにも広げる。料金は未定だが,企業向けと変わらない程度に設定するようだ。

 一方のNECは2007年11月に,有料のサポートサービス「NEC PC プレミアム リモート点検サービス」を開始した。こちらも年間5980円の料金を事前に払っておくサービスである。料金を事前に支払うことで,リモートによる代行操作などの手厚いサポートが受けられる。

 筆者が注目しているのは,この2つのサービスがユーザーに対する事後型サービス(アフターサービス)ではないという点だ。日本ヒューレット・パッカードとNECが始めるのは,事前に料金を徴収する保険型のサービスである。これが,サポートサービス分野における大きな「質的変化」を感じさせる。

 パソコンの単価が下がっている今,ユーザーサポートにかかるコストをいかに削減するかが,メーカーにとっての大きな課題となっている。しかしメーカーの多くは,これまでユーザーに対する手厚いアフターサービスを売りに,パソコンの拡販を続けてきた。このため,急に「コスト削減のために,アフターサポート費用を減らします」と手の平を返しにくいのだ。かといって,事後型のサービスレベルを維持したまま顧客満足度を高めようとすると,コストは思うように削減できない。

 保険型のサービスが登場したのは,こういったジレンマを解決できる可能性がある,とメーカーが考えたためだ。これまでとは異なるサービスを提供することで,ユーザーの目先が変わり,料金を徴収しても大きな不満の種にはならない,とメーカーは期待しているのだろう。

 もちろん,こうした有料のサポートを懐疑的に見る関係者もまだ多い。実際,個人向けパソコン市場において,メーカーの有料サービスがビジネスとして軌道に乗ったケースはないと言ってよい。あるメーカーの担当者は「企業向けならともかく,個人的に有償サポートサービスを利用する人はいないのでは」と,厳しい見方を示す。

 いずれにせよ,パソコンの単価が下がっている以上,個人向けパソコン市場において“無料のアフターサービスが当たり前”の時代はそろそろ終わりを告げるだろう。今回のような保険型サービスがユーザーに受け入れられ,サポートサービスの質的変化が本格化するのか。それともメーカーの思惑が外れ,サポートサービスの質がジリジリと下がり始め,ユーザーに我慢を強いる時代に逆戻りするのか。筆者は,今回のサービスにユーザーがどのように反応するのか,大きな関心を寄せている。