筆者が所属している日経コミュニケーションは12月15日号で通算500号を迎える。これに合わせて企画されたのが「世界50都市の通信事情」という特集だ。先ごろ,筆者はこの取材のために,ベトナムのホーチミンに出向いた。

 とにかく現地に到着して驚いたのは,外国人ビジネスマンや観光客が集まる地域のほとんどのカフェやレストランで無線LANが無償で開放されていることだった。しかも,WEPキーの入力やWeb認証も必要ない。Windows XPの無線LAN接続ツールを使い,一覧から接続したいアクセスポイントを選べばすぐにつながる。

 たとえ,カフェやレストランにアクセスポイントが設置されていなくても,近くに設置されているアクセスポイントが利用可能だ。実際,あるレストランで食事をしながらパソコンを開いたところ,店員に「うちの店はアクセスポイントを設置していませんが」と言われたが,近くのアクセスポイントにつないでインターネットを利用することができた。

 この環境は,現地で取材をする筆者にとっては非常に快適だった。1件目の取材が終わった後,次の取材までの間,最寄りのカフェでメールの返信やニュースのチェック,次の取材が終わったら,さらに次のアポイントまでネットにアクセスという具合に利用できた。当然ながら,日本のように公衆無線LANサービスの提供マップを事前に調べておく必要はない。

 さらに,うれしかったのは,認証が必要ないので無線LANに接続するデバイスを選ばなかった点だ。筆者は現地のホテルのロビーで待ち合わせをしたが,5分ほど時間が余ったので,iPod touchを使ってWebアクセスをすることができた。WEPキーの入力も,パスワードも必要もないので,接続は一瞬だった。

無線部分のセキュリティは不要

 もちろん,こうした環境は使い勝手がいい半面,セキュリティの問題があるのは承知している。無線部分を暗号化しなければ,盗聴され,サーバーとのやり取りを簡単に盗み見られてしまう。

 とはいえ,日本の公衆無線LANがこの問題に対して,安全かといえばそうではない。ほとんどのサービスが全ユーザーでWEPキーを共通にしており,このWEPキーさえ知ることができれば盗聴できる。確かに,WEPキーを知っている人間しか盗聴できないのでハードルは高くなるが,盗聴されるとまずい情報がある場合は,IPsecやSSL/TLSなどで暗号化しなければならないのは同じだ。

 また,認証無しで,誰でもアクセスポイントに接続できるようになっていれば,ここを踏み台としてネット上で悪さをするという指摘がある。しかし,ネット上で悪さをする人間は,そもそも足跡を残さないようにして攻撃する。例えば,多段のプロキシを使ったり,ボットに感染させたパソコンを踏み台にするといった手段を使う。攻撃者がどこから攻撃してきたかを調べるのはほぼ不可能だ。

 こう考えると,あまり公衆無線LANの通信回線のセキュリティに神経質になっても仕方がない気がする。

日本でのサービス出現に期待

 話をホーチミンの公衆無線LANに戻そう。同地域の無線LAN環境がどうして今のような状態になったのかは結局のところ分からなかった。想像するに,どこかのカフェやレストランが無償の無線LANサービスを始めたのがきっかけで,競争上,ほかの店舗も入れていって今のような環境になったと考えられる。認証やデータの暗号化をしていないことにも深い意図はなく,セキュリティの意識があまり高くないからではないかと筆者は考えている。

 そうした事情はともあれ,実際に使ってみると,セキュリティ機構が一切かかっていない公衆無線LANサービスが街中に広がっている環境は本当に使いやすい。この環境が日本にあったらいいのにと帰りの飛行機の中で考えた。