拝啓 社長殿

 突然ですが貴殿にお聞き入れいただきたいことがございまして、本日はペンを取りました。

 我が社は「西暦2000年問題」への一環として、2000年に全社のパソコンを一新しました。その4年後にWindows XPパソコンを一斉導入し、来年、つまり2008年に次の買い替えサイクルに入ります。先日、友人と飲んだときも、来年はパソコンの買い替え時期に当たるため、「どんな仕様のパソコンにしようか」といろいろ検討しているそうです。

 そこで、従業員の代表として、次のパソコンに関する要望をお伝えしたいと考えております。どうか、パソコンの導入コストだけでなく、パソコンや従業員を取り巻く環境の変化、我々の生産性のことも配慮して頂きたいのです。

 まず、私の窮状を聞いてください。私のパソコンは異動を期にたまたま買い替えたもので、2005年3月に新部署の予算で購入しました。まだ2年半しか使っていません。会社が定めた標準仕様のWindows XPパソコンで、CPUはPentium4(動作周波数3GHz)、メインメモリー512MB、ハードディスク(HDD)70GBというスペックです。

 使い始めは悪くなかったのです。必要な仕事を期待するスピードで処理できていました。すごく速いとは思いませんでしたが、以前使っていたパソコンよりは高い性能でした。

 しかし、2年もすると、パソコンの処理スピードがどんどん落ちてきました。高性能なパソコンを使っていらっしゃるという貴殿には実感がないかもしれませんが、そういうものなのです。今では、起動中のオフィス・ソフトを切り替えたり、閉じたりするだけでも、10秒以上かかるときがあります。場合によっては、パソコンがフリーズしたのではないかと思うくらい長い時間、レスポンスがないこともあります。そんなことが立て続けに起こると、思わず「遅い!(怒)」と声を上げてしまうこともあります。そのストレスたるや、貴殿には想像し難いかもしれません。

 パソコンの処理スピードが落ちる原因はいろいろあります。よく言われるのは、「ソフトをインストール/バージョンアップするたびに、Windowsのレジストリが肥大化する」といった技術的なことです。しかし、ほかにも原因があると思うのです。それは、従業員のワークスタイルも含めて、パソコンを取り巻く環境にさまざまな変化が起こっていることです。パソコンの購入時には想定できていなかったことですが、これらがパソコンのリソース(CPU、メインメモリー、HDDなど)を最も消費していると考えています。

 例えば、貴殿のもとに届く電子メールの数は毎年かなり増えていないでしょうか。社内外のメーリングリストに入っていることでメールが急増しているだけでなく、スパム対策ソフトを潜り抜けてくるスパム・メールの数も相当数に上ります。私は削除済みメールを8カ月保存していますが、最近整理したにもかかわらず、フォルダには3万件以上のメールがありました。当然、直近のメールを見るために削除済みメール・フォルダを開こうとすると、5~10秒待たされます。このメール・ソフトは、パソコンのメインメモリーを最も消費しているものの一つです。

 FirefoxやInternet Explorer 7のようなタブ型のWebブラウザも、パソコンのリソースを大量に消費するようになりました。多数のWebページをタブで簡単に切り替えて見られるため大変便利ですが、それゆえ、同時に表示するWebページの数が以前の倍くらいに増えたのです。

 いろいろとソフトをインストールしてきたため、知らない間に常駐プロセスがかなり増えていて、これらもメインメモリーを大なり小なり圧迫しています。調べてみると、アプリケーション・ソフトの一部が常駐化していたり、各種の自動ソフトウエア更新プロセスがインストールされていたりしました。その多くを整理して、アプリケーション1本分くらいのメモリーを解放しました。それでも、常駐プロセスの中には私が愛用するGoogle Desktopも含まれていて、削除できないものが結構ありました。

 まだHDDには余裕がありますが、そこに格納するデータにも変化が起きています。プレゼン資料やPDFファイル、デジタル写真など、サイズが大きいコンテンツが増えていることに加え、一つひとつのサイズもどんどん大きくなっているのです。例えば私が5年前に撮ったデジタル写真は1枚600KBくらいでした。当時、何百万画素のカメラを使っていたのか覚えていませんが、今はコンパクトカメラでも1000万画素の時代なので1枚5MBくらいになっています。また、こういう高解像度なデジタル写真や画面ショットをそのまま張り込んだプレゼン資料のサイズも格段に大きくなっています。

 社長殿、改めて申し上げますが、パソコンの購入時に想定できていなかったことが次々と起こっています。これらが、我々従業員が使っているパソコンの処理速度を落としています。いろいろとチューニングを試みていますが、それももう疲れました。

 ですから来年は、ぜひ十分なスペックのパソコンを購入してほしいのです。初めからギリギリの性能しかないパソコンは、どうかご勘弁ください。従業員が求めているのは、4年間(買い替えサイクル)の環境変化に耐えうるスペックのパソコンにほかなりません。例えばWindows Vistaパソコンなら、最新のデュアルコアCPUに2GBのメインメモリー、160GB以上のHDDが搭載されていると最高に幸せです。

 パソコンのスペックを高くすると、1台当たりの価格が4万~5万円高くなるかもしれません。貴殿にすれば、これは簡単に認められない金額差であるに違いありません。しかし考えてみてください。パソコンが遅くなることによって、また、それが引き起こすストレスによって、我々従業員の生産性は確実に低下します。1日当たりのロスは大したことないように思えても、1週間のロスを合計すると1時間程度の残業に結びつくのではないでしょうか。パソコン購入後、3年目と4年目の2年間で毎週残業が増えると仮定したら、トータルで100時間の残業代が発生します。パソコン購入で4万~5万円を惜しむのとどちらが得か、我が社の経営を担う貴殿には一目瞭然のことでしょう。

 それでも「金額が高い」とおっしゃるなら、Vistaより軽いWindows XPを搭載したパソコンを購入する手もあります。1ランク下のハードウエア・スペックでも大丈夫です。一部の従業員は「どうして今さらXPなの?」と不満をもらすでしょうが、パソコン好きの友人の中には、今あえてXPパソコンを買う人も少なくありません。2008年6月末までなら、パソコン・メーカーからプリインストール・マシンを購入できます。ただし、XPに対する一部のサポート・サービスが2009年4月で終了する点は考慮してください。

 これから貴殿が2008年の予算を検討していくうえで、我々従業員の声に少しでも耳を傾けていただけることを願ってやみません。

                             敬具

*記事中の設定はすべて架空のものです。取材先の話を元に再構成しました。