インターネットが普及したことで,自分の生活に起きた一番大きな変化は何だろうか。あらためて考えてみると,まず,メールが当たり前になったことが大きい。仕事はもちろんのこと,プライベートを含めて,いまや行動の多くがメールの存在を前提としたものになっている。

 それに加えて,ここ数年,インターネットでモノを買うことがかなり増えた。特に,電動ハブラシのハブラシ部分や浄水器のフィルタのような消耗品の購入で重宝している。こうした消耗品は近所ではなかなか売っていないし,品ぞろえの充実した大型量販店でも,本体部分とは違って値引き対象にならないことが多い。ネットでの購入なら,パソコンの前に座って複数ショップの販売価格を比較し,もっとも安い商品を選択するだけで済む。

15歳から69歳までの23%がネットショッピングを体験

 野村総合研究所(以下,NRI)は10月24日,「生活者1万人アンケート調査--大衆化するIT消費」の結果概要についてメディア向け発表会を開催した。そこで配布された資料を見ると,インターネットでのショッピング経験者の比率は,2006年には23.3%に達している。20代と30代に限れば,35.7%がネットショッピングを経験している。

 NRIの分析によると,ネットショッピングが普及する上で,ADSLや光ファイバーを使ったブロードバンド常時接続の貢献が大きかったという。定額制のブロードバンド常時接続があれば,消費者はいつでも大量に情報を検索・取得できる。この結果,腰を落ち着けてネットから情報を入手し,もっとも評判の良い商品を,もっとも安い価格で購入できるようになったというわけだ。

 実際,総務省の「通信利用動向調査」を見ると,ブロードバンド常時接続は2002年から2006年にかけて急速に普及している。NRIの調査結果を見ると,ネットショッピング経験者の比率は,ブロードバンド常時接続の普及と歩調を合わせるように,2000年の4.8%,2003年の13.8%から,2006年の23.3%へと着実に増加している。

 ちなみに,NRIの「生活者1万人アンケート調査」は,1997年から3年おきに実施されており,今回が4回目。日本国内の15歳から69歳までの無作為抽出した男女1万52人を対象に,調査員が訪問してアンケート票を配布,後で回収する「訪問留置法」を採用している。お手軽なネット調査とは違って,かなりの手間がかかった本格的な調査である。“ネットユーザー限定”というバイアスがかかっていないので,15歳から69歳までの日本人の平均的な姿をとらえたものと考えてよいだろう。

意外と低かった消費者のネット情報活用度

 NRIの調査で少々意外だったのは,購入前に商品情報を収集する情報源として,ネットの役割がまだまだ小さかったことだ。実店舗,ネットショップに関わらず,「よく検討してから買う」は62.0%,「情報を集めてから買う」は28.9%,「使っている人の評判が気になる」は20.9%に達している。にも関わらず,情報源としてネットを利用する比率は,自動車のような高額商品でも「各企業のホームページ」が4.9%,「商品比較サイト」が1.5%,「掲示板,個人のサイト,ブログ」は1.1%に過ぎなかった()。

表●消費者が参考にする商品分野別の情報源
  テレビのコマーシャル 折り込みチラシ 各企業のホームページ 価格コムなどの商品比較サイト 掲示板,個人のサイト,ブログ ダイレクトメール(DM) 雑誌の記事・広告 パンフレット・カタログ 店頭や展示場で実際に見て 知人・家族などから聞いて
日用雑貨品 12.1 49.8 0.9 0.3 0.4 1.1 5.9 6.4 34.1 7.8
化粧品 16.7 10.8 1.5 0.6 0.9 4.1 8.8 9.8 23.1 12.5
ファッション 5.1 24.6 1.8 0.4 0.9 4.1 16.1 11.1 43.1 8.6
趣味電気製品 15.7 30.0 4.8 5.3 1.8 2.4 7.2 19.0 41.2 7.4
自動車 19.5 13.1 4.9 1.5 1.1 3.0 8.6 22.3 36.7 9.4
旅行 4.1 18.9 4.9 1.2 1.5 5.7 10.7 30.9 9.1 12.6
出所:NRI「生活者1万人アンケート調査」(2006年)

 ネットを情報源とする比率が最も高かったのは,AV機器やパソコンを含む「趣味電気製品」分野の「商品比較サイト」5.3%である。これには,同分野の商品情報を豊富に扱う商品比較サイト「価格.com」などの存在が大きいのだろう。

 読者の皆さんは「CGM(Consumer Generated Media:消費者生成型メディア)」という言葉をお聞きになったことがあるだろうか。消費者が体験を書き込んだクチコミ掲示板やブログ,SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス),さらに消費者がコメントを書き込める商品比較サイトなど,消費者自身が情報を持ち寄って作成されるメディアのことだ。

 ブロードバンド常時接続の普及によって,商品情報を発信する主役は,企業から消費者自身が情報を発信するCGMへ移行しつつある。もちろん,消費者発の情報は玉石混交であり,勘違い,一個人の特殊な体験談,偏見に満ちた意見なども多い。それでも,企業発のマス広告では伝えきれない「生活者自身が必要とする情報」が,その中には埋もれている。

 繰り返しになるが,NRIの「生活者1万人アンケート調査」は,ネットユーザーだけでなく,15歳から69歳までの平均的日本人全体を対象にした調査である。記者の予想に反してCGMを含む「ネットを情報源とする」のパーセンテージが1桁台の下の方だったのは,現状では妥当な数字なのだろう。

 だが,CGMを活用する消費者の比率は,今後,おそらくもっと増えていくだろう。CGMの側でも,消費者の有益なコメントが蓄積されていくだろうし,検索機能やランク付けなど,役に立つ意見を見つけるための道具立ても充実してくるはずだ。

 企業の側でも,すでにCGMを取り込んだマーケティング活動を重視する動きが活発化している。それらは,ITpro Watcherで連載中の「久米信行の企業経営に生かすblog道」で紹介されているソニー,アップル,日産自動車などの事例を見れば明らかだ。

 NRIの「生活者1万人アンケート調査」は3年おきに実施されている。予定では,次回の調査は2009年実施,結果の公表は2010年になる。そのときには,消費活動および企業のマーケティング活動は,CGMの存在を抜きにしては,考えられなくなっているのではないだろうか。