「NGNがよく分からない」──。今なお,こんな声をよく耳にする。そこで,日経コミュニケーションの11月1日号で,「NGNの潜在能力」と題した特集を企画した。特集では,NGN(次世代ネットワーク)のフィールド・トライアルに参加する企業などの取材を通じて,NGNの三つの特徴にフォーカスして,インターネットとの比較などを交えながら解説した。

 この号が出るちょうど1週間前の10月25日,NTT東西地域会社が2008年3月に開始する予定であるNGNの商用サービスの概要をようやく発表した(関連記事)。

 最大100Mビット/秒の光ブロードバンドサービス,コンテンツ配信の「フレッツ・ドットEX」,IP電話サービス「ひかり電話」──。既存のフレッツで提供中のサービスに,帯域保証通信や音声の高品質化,ハイビジョン・クラスのテレビ電話,IPv6通信機能の標準装備などが新たに追加される。最も目を引く新サービスと言えば,地上デジタル放送のIP再送信向けマルチキャスト配信だろうか。いずれにしても,満を持して始まるNGNの商用サービスは,既存のフレッツにプラスαしたものという印象だ。「こんなサービスが始まるのか」という,サプライズはなかった。

 ところで,商用サービス発表よりもむしろサプライズだったのが,同じ日にNTT持ち株会社とNTT東西が公表した「次世代ネットワークのフィールド・トライアル実施報告書」である(関連記事)。この報告書は,NTTグループが昨年12月から開始したNGNフィールド・トライアルの検証結果やアンケート調査などをまとめたもの。これまでに発表したNGN関連のプレスリリースも含めると,実に153ページというボリュームである。

一般モニターは品質を評価

 報告書には,トライアルに参加した企業がNGN上でアプリケーション・サービスを稼働した際の検証結果,NTT以外の通信事業者やISPのネットワークとNGNの相互接続検証の結果に加えて,一般モニターへのアンケートおよびトライアル内容を一般に公開するショールーム「NOTE」(NGN Open Trial Exhibition)でのアンケートの結果が掲載されている。中でも一番気になったのが,一般モニターのアンケート調査結果だ。

 IP電話やテレビ電話,地上デジタル放送のIP再送信,ハイビジョン映像配信などの各サービスの品質については,おおむね高い評価だ。NGNはQoS(サービス品質)保証を売りにしているだけに,これは想定の範囲内である。

 問題は,いくらサービス品質が良くても,ユーザーがお金を払っても使いたいかどうかだ。「クリアな音声やハイビジョン品質の映像を安定して通信することができる品質保証型の通信サービスがあれば,品質のよさに見合った料金を払って利用したいと思いますか」。この問いに対して,「そう思う」が14%,「どちらかといえばそう思う」が44%,「どちらかと言えばそう思わない」が19%,「そう思わない」が19%,「わからない」が4%──という結果だった。「どちらかと言えばそう思う」を含めると,58%が “肯定派”ということになる。

 実は,この結果にやや驚いた。総務省と本誌が今年7月から8月にかけて実施した「ブロードバンド/モバイル/NGN時代の企業ネットワーク実態調査」(本誌9月15日号掲載)で,NGNのサービスについて「どの程度の料金水準であれば利用しますか?」との問いに対して,8割以上の企業ユーザーが「同水準かそれ以下の料金であれば利用する」と回答していた。NGNトライアルの一般モニターの大半は個人ユーザーであり,同じ水準で比較はできない。それでも,少なくとも「品質の良さに見合った料金を払って利用したい」の肯定派が否定派を上回るとは想像していなかった。一般モニターは,実際にNGNのサービスを体験した上で,サービス品質の価値を認めたと言えるのだろうか。

 NGNトライアルに参加している東京都内在住の一般モニターと話をする機会があった。このモニターは5月にNGN回線やSTB(セットトップ・ボックス)などを設置した。当初は,あまり利用しなかったというが,8月から9月にかけて,ハイビジョン映像配信サービスのコンテンツが増加し,テレビ電話用の英会話レッスンなどサービスが充実してきたころから使う機会が増えたという。地上波デジタル放送のIP再送信については「既存のアンテナで 視聴できるので,1,2回見ただけ」と,それほど必要性を感じていない。ただし,ハイビジョン映像配信サービスについては,「映画やドラマなど,視聴できるコンテンツの数が増えれば魅力的なサービスだと思う。映像サービスについては,遅延もなく想像していた以上に良かった」と前向きに評価する。料金は,「フレッツが元々安くないので,フレッツと同じくらいであれば」との回答だった。

 おそらく「同じ水準であれば」という選択肢があれば,こちらを選ぶモニターも多かったのではないかと推測する。それを差し引いたとしても,やはりNGNを体験したモニターはNGNの品質についてそれなりに評価しているのではないか,と言ってよいのではないだろうか。

NGNに触れた人はごくわずか

 報告書の中でもう一つ気になったのが,NGNのショールーム「NOTE」の来場者へのアンケート調査だった。NGNについての理解度は,来場者の19%が「非常によく理解できた」,60%が「理解できた」と回答しており,両者をあわせると実に8割方が「理解できた」ことになる。さらに,NGNによって生活やビジネスが変化するかとの問いには,「非常に変わる」(22%)と「変わる」(60%)という回答を合わせると82%に達している。

 「NGNがよく分からない」,「具体的なサービスが見えてこない」など,NGNに対するネガティブな意見をよく聞くことがある。おそらく,読者の皆さんの中にも同じような意見を持ち,モニターやNOTEの来場者の反応に違和感を覚える方も多いかもしれない。それは,当然のことだろう。NGNの一般モニターの数は,東西合わせてわずか500人,NOTEの来場者数は9月末現在でようやく1万7000人である。NGNを直接触れる機会が少なすぎるのだ。「QoS」だとか言われてもピンと来ないのは当たり前だろう。今後,NGNに直接触れることができる機会をもっと増やさなければ,いつまでたってもNGNへの理解度は低いままになるのではないだろうか。

 いずれにしても,NTT東西は2008年3月にはNGNの商用サービスを始める。サービス内容も提供エリアもスモールスタートになりそうだ。NGNの提供エリアは確実に拡大するだろうが,サービスの内容がどこまで充実するかは未知数である。しかし,モニターやNOTE来場者の反応を見る限り,ニーズはそれなりにありそうだ。品質は支持されるも,問題はやはり料金だろう。「品質のよさに見合う料金」をどう設定するかが,NGNそのものの普及のカギになるのは間違いない。