自分でも信じたくはないが,私はシステム事故を招く疫病神である。私が記事を書くと,言及した企業や団体が利用している情報システムが止まる。止まらない場合,システムが処理を誤る。システムが開発途上ならプロジェクトが破綻する。この10月,記事を書いた直後,またシステムに不具合が起きた。

 私が迷惑をかけたに違いない企業は,ゆうちょ銀行である。10月15日未明,日経ビジネスオンラインに「渡辺金融相,ゆうちょ銀システム不具合の問題視は「非常に問題」です」と題したコラムを公開した。すると同日午前9時,ゆうちょ銀行の情報システムにおいて,年金の振り込み処理が遅れる事態が起きた。コラムを公開してからわずか数時間後である。自分が書いたコラムが害をもたらす早さに私は慄然とした。

 15日に公開したコラムは,渡辺喜美金融担当大臣に苦言を呈するものであった。渡辺大臣が,ゆうちょ銀行の顧客情報照会システムで起きた応答性能劣化について「非常に問題」と発言したことに対し,「大臣の発言こそ非常に問題」と申し上げた。ところが私が書いたコラムのせいであろう,ゆうちょ銀行の別なシステムに問題が起きてしまった。

 ゆうちょ銀行が15日に発表したところによると,国家公務員共済組合連合会加入者への年金払い出しが,本来の9時から行われず,26分間遅れた。これを受け,渡辺大臣は16日の記者会見で「年金の支払いはあらかじめ決まっていることで,第一印象としては極めてお粗末。もっとしっかりしてほしい」と述べ,増田寛也総務相も16日,「あってはならないことでしっかりしてほしい」とし,事実関係の早急な報告を求めるとした(ともに16日付日本経済新聞夕刊による)。これに先だって,金融庁の佐藤隆文長官が15日に記者会見で「事故は誠に遺憾」「再発防止策が講じられるよう厳正に対処していく」と発言していた(16日付日本経済新聞朝刊による)。佐藤長官は10月1日のシステム問題についても,「利用者保護の観点からシステムの改善や業務執行体制が適切に行われているか,内容を精査していく」と語った。

 未確認だが,ゆうちょ銀行を受取金融機関としている膨大な数の国家公務員共済組合連合会加入者が15日の9時前から,ゆうちょ銀行のATMの前に並び,9時に振り込まれた年金をすぐさま引き出そうと待機していたに違いない。ところがなんと「26分間も」支払いが遅れてしまった。「26分間も」年金の受け取りが遅れた以上,生きるか死ぬかという目にあわれた方もあったのではないか。だからこそ,三人の大臣や長官は「誠に遺憾」な「あってはならない」「事故」であり,ゆうちょ銀行は「極めてお粗末」で「しっかりしてほしい」から「再発防止策が講じられるよう厳正に対処していく」と言い切った。

 実は,ゆうちょ銀行がお粗末なのではない。渡辺大臣を批判するコラムを私が書かなければ,26分間振り込みが遅れるという事態は避けられたと思う。それにしても揃いも揃って,三人の大臣と長官の発言は「極めてお粗末」で「あってはならない」ものであり,「しっかりしてほしい」と申し上げたい。私が総理大臣なら,大臣がこういう発言を繰り返さない「再発防止策」を「講じられるよう厳正に対処」したいが,残念ながらそうはいかない。