環境汚染と資源セキュリティが問題に

 大量の家電やパソコンが日本から中国や東南アジアに流れる背景には,新興国の急速な経済発展と世界的な資源価格の高騰がある。国内の中古パソコン買い取り業者や廃品回収業者から輸出業者にわたったパソコンの多くは中国に渡り,深刻な環境汚染を引き起こしている。

 日経ビジネスの2007年9月17日号の特集「アジア静脈経済圏」では,広東省北東部にある貴嶼(グイユ)という通称「リサイクル村」が深刻な鉛害に悩まされている実態が報告されている。この村では電子基板の鉛はんだを熱で溶かしてICチップを取り出す作業や,基板を強酸の溶液に漬けて金を分離する作業が行われ,鉛や強酸を含んだ廃液は土壌に垂れ流しの状態というのだ。その結果,貴嶼に住む80 %以上の子供が鉛中毒に冒されていると同誌は報じている。貴嶼の惨状については,国際環境NGO(非政府組織)のバーゼルアクションネットワーク(BAN)が以前から日本など先進各国に警告を発してきた。

 パソコンや家電の海外流出はまた,金や白金などの希少資源が国内から失われているということでもある。これを資源セキュリティの観点から見過ごせないという向きも一部にある。先に紹介したように,250万台ものパソコンが輸出されている現状を考えると,金はパソコン1トン当たり200~300グラム含まれるとされているため,年間2500~3800kg,金額換算すると最悪の場合で100億円相当の金が海外へ流出している計算になる。

 昨年10月30日~11月1日に東京で開催されたアジア3R推進会議には,アジアの19カ国と8国際機関が参加し,パソコンなどの電子電気廃棄物(e-waste)対策や再生資源の有効利用などについて議論が交わされた。このように国際的な資源循環や環境問題に取り組む動きもようやく見られ始めたが,2国間で相対して議論するまでに至っていない。

 例えば日本の使用済みパソコンが中国の環境を汚染している問題にしても,日本から輸出された時には「中古製品」だったわけで「廃棄物」や「有害物質」ではない(バーゼル条約締結国間はゴミや有害物質の輸出を禁止している)。事実,中国の出先機関によって日本からの積み荷の検査も行っている。それが積み荷の一部に有害物質が混入していたり,中国内での不適切な処理によって現地の汚染が広がったとしても,それは見えないフローでのこと。本来,つながっていないはずの問題であるだけに,表立って議論しにくい難しさがある。

リサイクル制度をどう見直すか

 使用済みパソコンを有価で買い取ったり,無料で引き取ってくれる業者がいる限り,メーカー系のリサイクルシステムの稼働率は上がらない。メーカーだけにリサイクルの責務を負わせるのではなく,大企業などの大口ユーザーやリース事業者にも対応を求めようという動きがある。

 例えばリース会社からはユーザー企業からリース期間を終えて戻ってくる,いわゆるリースアップのパソコンが年間300万台以上排出されている。だがリース事業協会が昨年行った調査によると,リース事業者がメーカー系のリサイクルシステムを利用する比率はわずか8.5%に過ぎなかった。

 リサイクルシステムを利用しない理由を聞くと「リース事業者は,パソコンだけでなく,複合機やオフィス家具などを一括して中古製品販売業者に買い取ってもらう流通ルートが,リサイクル法の施行前から出来上がっている。今さらパソコンだけ,しかもメーカーごとに再生利用業務委託契約を結んで回収してもらうという制度は非常に使いにくい」(リース事業協会広報)という返事が戻ってきた。

 こうした流通業者や大口排出事業者などの意見をとりまとめながら,来月産構審が公表する中間答申では,「逆有償を前提に成立している古紙のリサイクルシステムを参考にした制度の見直し案が示される模様」(経済産業省)だ。

 古紙の流通システムでは,大企業など大口排出者のところには専門の買い出し業者が出向いて回収を行い,オフィスビルや町内会など集団回収を経て集まった古紙などと共に,最終的には直納問屋に集積されて,製紙メーカーなどの再資源化事業者に送られる。古紙価格の変動で需給バランスに動きはあるものの,製紙原料への古紙利用率は60%を超えている。その柔軟な回収・流通システムに参考にすべき点は多いだろう。

 もちろん,何でもメーカーのリサイクルに回せばいいというのではない。リユース,つまり中古パソコン市場がどんどん拡大し,パソコンの再利用が進むこと自体は非常によいことである。問題は,中古パソコン販売事業者などに渡った後の処理フローが見えにくいことであり,フローを確実に見えるようにする仕組みを作ることが重要なのである。年間150万台ものパソコンを中古市場に流しているリース事業者にしろ,大口の企業ユーザーにしろ,「売った後のことはもう知らない」という理屈はもはや通らないということだ。

 もしかすると,あなたの会社も規制の対象になるかもしれない。どれくらいの規模の企業ユーザーに対して,どのような対応を求めるのか,今後注目していく必要があるだろう。

 そして忘れてはならないのが,あなたの自宅にあるパソコンだ。もし市中の廃品業者に無料で引き取ってもらおうと考えている人がいたら,「このパソコンはどこに行くのですか。海を越えますか」と聞いてみてほしい。「よくわからないんです」という答えだったら,引き渡さない方が無難だ。