日本オラクルは2007年9月1日,米Red Hatの商用Linuxディストリビューション「Red Hat Enterprise Linux」(以下,RHEL)の有償サポート・サービスを開始した。同サービスは「Oracle Unbreakable Linuxサポート・プログラム」(以下,Unbreakable Linux)と呼ばれる。RHELの有償サポート・サービス(サブスクリプション)は従来,Red Hat自身やシステム・インテグレータなどが提供していた。ソフトウエア・ベンダーが独自にサポート・サービスを提供するのは異例である。

 Unbreakable Linuxは,2006年10月に開催されたイベント「Oracle OpenWorld 2006」で,米Oracleの会長兼CEO(最高経営責任者)のLarry Ellison氏が発表。それ以来,“Red Hatの同種のサポート・サービスより低価格”,“Red Hatのサポート・サービスを脅かすもの”と,サポート・サービスの面でRed Hatに真っ向から挑むものと思われてきた。しかし,日本では両社のサービスは補完や協調関係にある(詳しくは,日経Linux2007年11月号の特集2をご覧いただきたい)。

 Unbreakable Linuxは一見,単なるOracleのサポート・サービスのように思えるが,実はその裏に“OracleのOS”を実現するための第一歩が隠されている,と記者は考える。

オープンソースでなければOSの修正は不可能

 Oracleが同社のデータベース製品などのサポートを行う場合,その下で稼働するOSにまで手を入れることは考えにくい。特に,Windowsや商用UNIXなどはソース・コードが公開されていないため,事実上不可能だ。Oracle製品とOSとの間で何か問題が発生した場合,製品側だけで対処する,あるいはOS側の対処を待つしかない。

 もっとも,大手のシステム・インテグレータにはWindowsなどのソース・コードが提供されているため,基幹系システムなどのミッション・クリティカルなシステムでは,顧客ごとに独自のソフトウエア・パッチが適用されることもある。だが,一般向けにパッチを提供するといったことはほとんどない。

 オープンソースであるLinux OSの場合,商用Linuxディストリビューションでもソース・コードが公開されているため,ソフトウエア・ベンダーがOSのパッチを作ることもできる。しかしながら,商用Linuxディストリビューションは,他社のソフトウエア製品である。そうなると,ソフトウエア・ベンダーであるOracleが,OSにまで手を入れたソフトウエア・パッチを公に提供することは難しいであろう。オープンソースの場合,ソフトウエア・パッチを送付してコミュニティが採用するのを待つという手段もある。ただ,Red Hatにソフトウエア・パッチを送付しても,いつ採用されるかは分からない。他のソフトウエアの関係もあるため,簡単に採用するわけにはいかないといった事情もあるからだ。

 この状況を変えるきっかけとなるのが,Unbreakable Linuxである。Oracleは,「Enterprise Linux Network Support」「Enterprise Linux Basic Support」「Enterprise Linux Premier Support」という3種類のサポート・レベルを用意している。最も上位のサポート・レベルになるEnterprise Linux Premier Supportは,Oracleが独自に作成したバックポート修正パッチや不具合修正パッチを提供する。これは,Oracleが公にRHELのソフトウエア・パッチを提供し,RHELをOracle製品を動作させるために適したOSに“改良”していることにほかならない。

OELこそ自社OSの原型

写真●Oracle Enterprise Linuxインストーラの画面
写真●Oracle Enterprise Linuxインストーラの画面
[画像のクリックで拡大表示]
 これと並行して,Oracleは“自分のOS”を提供するための準備も進めている。Unbreakable Linuxは,RHELの有償サポート・サービスだが,RHELはRed Hatの有償サポート・サービスに契約してはじめて利用できる。

 そこでUnbreakable Linuxでは,Red Hatの有償サポート・サービスを契約したことがないユーザー向けに,RHEL互換のLinuxディストリビューション「Oracle Enterprise Linux」(OEL,写真1はインストーラの画面,インストール・ガイドはこちらを参照。インストールDVDは日経Linux2007年11月号付録メディアに収録)を用意し,それに対しても同様のサポート・サービスを提供する。OELは無償で入手でき,ソフトウエア・パッチの入手のみのサポート・サービスと組み合わせれば,年間1万2400円で利用できる。

 Oracleには以前,自社のOSを持ちたいという意向があったが,記者はこのOELこそが自社OSに相当すると考える。上述した低価格戦略によりOELが普及してRHELのように知名度が上がれば,RHELと同様に企業システムでの基幹OSとして扱われるだろう。Oracleが好きなようにOS内部に手を加えることも可能になる。そこで初めて,自社OSを用意できたといえるのではないだろうか。