最近,身の回りで携帯電話の電池パックが膨らんでいる例を立て続けに見る機会があった。いずれも,知人が「電池のもちがよくないんだけど,何か原因はありそう?」といって筆者に見せにきたときのことだ。

 そのうち2件は電池パックが見事に膨らみ,カバーするフタまで電池パックの膨らみに合わせて変形していた。電池パックを外して確認するまでもなく,明らかに外観からも正常ではないことが見て取れる状況だった。

 筆者も数年前に,電池パックが膨らんだ経験をしている。元々は平らだった底面が膨らみ,机などの平坦なところに置くとガタガタ揺れるようになっていた。筆者の数年前の経験のときも,身の回りで最近あったケースでも,ショップなどに相談を持ちかけたところ,電池パックを交換することでその件はとりあえず落着した。

 一方で,携帯電話の電池パックが膨張・発熱するリスクがあるとして,リコールになることもある。近いところの例を見ると,2006年12月にはNTTドコモが三菱電機製端末の電池パックを130万個回収しているし,今年の8月にはNTTドコモとソフトバンクモバイルでノキア製端末の電池を交換するとのアナウンスをしている。KDDIも,3月に電池パックが膨張するおそれがあるとして,京セラと三洋電機製の端末でソフトウエアのアップデートを実施している。

電池が膨らむこと自体は不具合ではない!?

 こうしたニュースを見聞きしたユーザーからすると,自分のケータイの電池パックが膨らんでいることを発見したら,「すわ不具合か」と感じ慌てることもあるだろう。ニュースには,「破裂のおそれもある」といった文言もあり,不安がかきたてられる。膨らんだ電池パックは危険と隣り合わせなのだろうか。

 そこで,携帯電話事業者のWebサイトをくまなく見ていくと,「電池パックが膨らむのは,寿命が近づいているからであり,それ自体が危険なことではない」というQ&Aや告知の文言があった。こうした告知があることは,今回,調べてみるまで筆者は気付かなかった。

 要するに電池パックの膨張は,電池の酷使による寿命を知らせているのだという。特に,ACケーブルにつなぎながらの利用や,充電台の上に載せっぱなしにするような状態を頻繁に繰り返すと,電池の寿命を縮めて短期間で電池パックが膨張することもあるとの説明だ。

 ということは,電池パックが膨張してしまったケースは,経年変化やユーザーの使い方により「電池自体が寿命を迎えている」ということに過ぎない。電池パックが膨らんでいるような状態では,充電しても持ち時間が短くなっているということ。だからほとんどのケースで,ユーザーは電池パックの膨らみを発見しても不安に思う必要はなく,寿命が来たと認識して電池パックを交換すればいい。

 しかし,その情報の告知が十分になされているとは言い難いのではないか。ノートパソコンや携帯電話の電池に不具合があり回収になるといったニュースは大きく報道されているため,情報に触れる機会は少なからずある。一方で,通常の使用で電池パックが膨らんでも「不具合ではなく危険はない」という情報はあまり目に触れない。筆者は自分の携帯電話の取扱説明書を見てみたが,「膨らむ」ことへの説明を見つけることはできなかった。そもそも取り扱い説明書を見ること自体がなかなかない。Webサイトに“ひっそりと”書いてあるだけで周知できるかといえば,それも疑問だ。

 「電池パックが膨らむ」という現象は,不具合によるリコール対象になる場合と,通常の劣化の表れである場合と,両方のケースを内包している。ユーザーにはその区別は付かない。だからこそ,通常のケースでの膨らみには不安はないこと,不具合があった際には速やかに対応することを,もっと周知してもいいのではないだろうか。

 携帯電話は完全に一人1台の時代になった。皆がカバンやポケットに入れて常に持って歩くものだけに,リスクの周知はもちろん,どんな状態までは設計の範囲内で安全なのかを知らしめることも必要だろう。ユーザーが「なんとなく不安」と感じずに使えるように,電池パックの膨らみに限らず電磁波の影響なども含めて,メーカーや事業者は正確な情報をもっと積極的に発信してもらいたい。