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記者の眼

アイピーモバイル“後”を考える

大谷 晃司=日経コミュニケーション 2007/10/03 日経コミュニケーション

 最初に言っておきたい。“免許”を得ていても電波自体はアイピーモバイルのものではない。電波は「公共財」であり,アイピーモバイルは総務省の審査を経て公共財の使用を条件付きで認められた“借り手”である。同社の存在意義は,この公共財を使って日本全国で無線ブロードバンド・サービスを提供することのはずだ。それにもかかわらず,“借りた際の条件”はほっぽらかして,同社のサービスに期待するユーザーへの説明が一切ないまま,またしてもアイピーモバイルが迷走している。「またしても」と書いたのは,半年前にも同じような混乱があったからだ(関連記事)。

 ユーザーが望む無線ブロードバンド・サービスについて侃侃諤諤(かんかんがくがく)の議論をしている,というのなら迷走するのも分からないではない。同社がもたついているうちに,無線ブロードバンドの状況は様変わりしているからだ。既にメガ・ビット/秒クラスのモバイル常時接続サービスがイー・モバイルによって実現され(関連記事),さらに無線ブロードバンド環境を実現すべく,モバイルWiMAXや次世代PHSを使う2.5GHz帯の免許申請の真っ最中である(関連記事)。事業化が難しいのは確かだろう。だが実際のところ,迷走しているのは同社経営陣の内紛が原因の一つのようなのだ。正直付き合ってられないが,アイピーモバイルが曲がりなりにも「公共財」を預かる存在である以上,放っておくことはできない。

当初計画から1年以上の遅れ

 まずアイピーモバイルの足取りを振り返ってみよう。同社は2005年11月9日,総務省から「2GHz帯の周波数を使用する特定基地局の開設に関する指針に基づく開設計画の認定」を受けた携帯電話の新規参入事業者である(総務省の報道資料)。技術方式にはTD-CDMA(用語解説)を使う。この開設計画の認定を一般に携帯事業の「免許」と呼んでいる。この記事もそれに従う。この免許によって,アイピーモバイルは2010M超~2025MHz(2GHz帯)の15MHz幅の周波数帯を,同社が提供する通信サービスのために使うことができる。

 周波数および技術方式は異なるが,アイピーモバイルとともに免許を受けた新規事業者には,今年3月に商用サービスを開始したイー・モバイルと,ソフトバンクの子会社であるBBモバイルがいる。BBモバイルは,親会社のソフトバンクがボーダフォンを買収したことにより新規事業者ではなくなったため,1.7GHz帯の免許を返上している(関連記事)。

 アイピーモバイルの計画では,当初の運用開始(サービス開始)は2006年10月1日。既に計画から1年が経過したが,サービスを開始する気配は一向にない。無論,その間に開設計画の変更を総務省に申請して認められればサービス開始日を先延ばしすることはできる。だが,同社は10月1日時点では開設計画の変更を提出していない。さらにこれに追い討ちをかけるのが,認定の前提となる「開設計画の指針」に書かれた運用開始時期の条件だ。運用開始の時期について指針では,「少なくとも一の特定基地局について2年以内に運用を開始すること」と定めている。つまり,2005年11月9日に認定を受けたアイピーモバイルのタイムリミットは2007年11月9日。あと1カ月強しかない。

アイピーモバイルは内紛で“自滅”

 話を戻す。アイピーモバイルの最初の内紛劇が表面化したのは,3月末から4月のことである。同社は免許を返上する/しないの迷走劇を演じた。当時アイピーモバイルは,一部の経営陣が事業資金を集めるのは困難と判断し,免許を返上する方向で動いていた。これに待ったをかけたのが,アイピーモバイル黎明期からのメンバーである杉村五男取締役会長(役職は10月1日時点)や竹内一斉代表取締役社長(同)である。土壇場になって森トラストというパートナーを見つけたのだ。そして森トラストは発行済み株式の69.23%を所有していたマルチメディア総合研究所から全株を譲り受け,アイピーモバイルの筆頭株主に躍り出た。

 なぜ森トラストだったのか。森トラスト関係者および竹内氏の双方が,縁戚や師弟関係などのプライベートな関係がパートナーシップの背景にあったことを認めている。いずれにしても4月の時点でアイピーモバイルは森トラストという強力な後ろ盾を得て,4月10日の同社の会見は撤退から一転して,株主の異動と事業継続を発表する場となった(関連記事関連記事)。そして,それまでアイピーモバイルを支えていた複数の執行役員や取締役が去っていった。

 ただ,この後も波乱は続く。森トラストの関係者は「与信として(アイピーモバイルの)バックについた」ことは認めているものの,「次の事業パートナーを見つけるために一時的な手助けをする」という意識だったと説明。この点に関してはアイピーモバイル側からも理解を得ていたという。実際,“手助け”の結果,7月13日に森トラストは,米国でTD-CDMAによる通信事業を展開しているネクストウェーブ・ワイヤレスに,森トラスト保有のアイピーモバイル株式全株を譲渡することで合意(関連記事)。8月8日に株式譲渡が実行された。

 この時点で森トラストは“つなぎ”の役割を全うし,アイピーモバイルとの関係を清算したはずだった。だがこの株式譲渡に付けられた条件が,再度の混乱を招く一因となる。森トラストがネクストウェーブに株式を譲渡するに当たり,ある条件が付されていたのだ。「先方が買い戻し請求できるオプションを付けて欲しい,とのリクエストが総務省からあった」と関係者は述べている。総務省がこうした要求をしたのは,さらなる転売で周波数が安易に売買されるような事態になっては困る,との考えからだと推測できる。その結果,契約締結後2カ月間,ネクストウェーブは森トラストに対して同条件で買い戻し請求できることになった。

 そして2カ月後,ネクストウェーブは森トラストに対して買い戻し請求を実行した。ネクストウェーブがアイピーモバイル株を手放した理由について,関係者は「米国内のサブプライムなどの問題もあり,(ネクストウェーブは)資金を集められなかったのではないか」という。この結果,一時的にせよアイピーモバイル株が森トラストに戻ってきたのだ。その後の顛末は既報の通りである。第二の内紛劇が始まったのだ(「アイピーモバイルの米ベンチャーによる買収は破談,新筆頭株主の詳細は不明」,「【続報】株式買い取りは杉村会長の個人判断,アイピーモバイルは同氏に辞任を要求」,「アイピーモバイル,杉村氏以外の経営陣退任へ,今後の資金面のパートナーは不明」 )。

免許返上後を考えた方が建設的

 これらの記事タイトルを見れば容易に推測できるが,9月の内紛劇は杉村氏と,杉村氏以外の経営陣(10月1日時点)の対立から引き起こされたものである。森トラストに何としてでも筆頭株主にとどまって欲しい竹内氏側経営陣,ネクストウェーブから買い戻し請求があった時点で免許を返上するとしていた森トラスト,その森トラストから免許返上を避けるために“個人的な立場”でアイピーモバイルの株式を買い取る選択をした杉村氏および杉村氏の背後にいるパートナー――。こうした関係が招いた内紛劇だった。

 これまでの経緯を考えると,今後アイピーモバイルが11月にまともなサービスを開始するとは到底考えられない。「公共財」を預かる事業者として,その公共財を利用する立場にあるユーザーへの説明が一切ないからだ。この記事が公開される前日の10月2日,アイピーモバイルは臨時株主総会を開催し,杉村氏以外の取締役4人(10月1日時点)の解任ならびに新任の取締役2人の選任を決議した(関連記事)。現時点では新取締役がアイピーモバイルでどのような役割を担うか定かではないが,ユーザーに対するアカウンタビリティがこれまでの経緯から感じられない以上,周波数を有効に活用してもらうにはアイピーモバイル“後”を意識した方がより建設的な議論ができそうだ。無論,アイピーモバイル自身が今後の事業計画を公の場で説明するのが望ましいが,その可能性は今のところ低いので,あえて筆者が考えられるシナリオを列挙してこの記事を締めくくる。

シナリオ(1) アイピーモバイルが11月9日までに既存の基地局を活用した商用試験サービスをとにかく始めてしまう

 仮にこうなったとしても,アイピーモバイルのブランドは大きく毀損している。ユーザーが集まらなければサービスの体をなさない。ユーザーが引導を渡すことになるだろう。

シナリオ(2) アイピーモバイルが開設計画の変更を申請し,サービス開始日の先延ばしを模索

 既に同社は,免許を得た際の開設計画で約束した運用開始日を守れていない。また11月という運用開始期限は,2GHz帯の開設計画の指針に盛り込まれている期限である。関係者によるとこの期限を延長するのは非常に難しいという。

シナリオ(3) アイピーモバイルが免許を返上し,総務省が再度事業者の募集をかける

 アイピーモバイルが免許を得た2GHz帯は,その開設指針に通信の技術方式としてTD-CDMAおよびTD-SCDMAを使うことが定められている。事業化が困難だった技術方式で,再度名乗りを上げる事業者は出てこないだろう。

シナリオ(4) アイピーモバイルが免許を返上し,2GHz帯を“更地”にしてTD-CDMA,TD-SCDMA以外の技術方式の導入を検討する

 これが最も現実的な解であるように思える。ただし,簡単なことではない。総務省総合通信基盤局電波部移動通信課の西潟暢央課長補佐は,「2GHz帯を(2.5GHz帯の)BWA(ブロードバンド・ワイヤレス・アクセス)の補欠にするんじゃないかという話があるが,そう簡単な話ではない。そもそも(アイピーモバイルが取得した2GHz帯の)周波数幅は15MHzしかない。既存のBWAの技術(モバイルWiMAXや次世代PHSなど)には2GHz帯を使うためのプロファイルが入っていない」(関連記事)と説明する。2GHz帯の開設指針に,モバイルWiMAXや次世代PHSを加えるには,再度の技術的な議論・検討が必要となる。時間がかかるのはやむを得ないだろう。

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