マッシュアップという手法は確実に広まりつつある。利用できる素材も充実してきた。次は、これらを使って魅力的なサービスを作り出す開発者を支援する環境を充実させるべきだ――。

 9月30日に開催された「Mash up Award 3rd」に参加して、若い開発者たちに取材して、記者はこんな思いを強くした。Mash up Awardとは、WebサービスAPIや開発ツールを使って、マッシュアップ・サービスを開発するコンテストである。

応募作品は前回比2倍の193作品

 第3回を迎えたMash up Awardの応募総数は193作品。第1回は56、第2回は108と、ほぼ2倍のペースで増え続けている(関連記事1関連記事2関連記事3)。リクルートとサン・マイクロシステムズが共催し、27の企業・法人が協賛している。

 最優秀賞に選ばれたのは、地図を中心にした各種の情報検索サービス「ONGMAP.COM」(図1)。作者は経営コンサルティング会社オープンアソシエイツに務める直鳥裕樹氏である(写真1)。

図1●ONGMAP.COM 写真1●直鳥裕樹氏
図1●ONGMAP.COM
[画像のクリックで拡大表示]
 写真1●直鳥裕樹氏
[画像のクリックで拡大表示]

 ONGMAP.COMは、Google Maps上に各種の検索結果を重ねて表示するサービス。「国会議事堂」などと検索すると、その所在地の地図を表示し、同じキーワードでWebを検索したりできる。

 ONGMAP.COMが評価された点は、その徹底度合いにある。周辺の天気予報やレストラン、学校、病院、ホテル、ヘアサロン、無線LANスポット、バスや鉄道の駅、Edyが利用できる店舗、TSUTAYA、マクドナルドなど、地域のさまざまな情報を同時に検索できる。加えて、その地域に関連するWeb上のニュースも検索可能。主要全国紙だけでなく、ローカル紙やGoogle News、ブログも検索できる。果ては世界遺産や表示地域の標高まで検索できるようにしているのだ。

 マッシュアップしているWeb APIは30を超える。これら大量の情報を同一画面から効果的に検索できる実用性、分かりやすいユーザー・インタフェースが評価された。

マッシュアップの「設計」に苦心

 ONGMAP.COMの作者である直鳥氏は「どういうAPIを集めてくるか、それらをいかに組み合わせるかに、最も頭を使った」と話す。開発に費やした期間は、6月から8月のおよそ2カ月。APIを探したり、それらを組み合わせるための設計作業、ユーザー・インタフェースのデザインなどに、大部分を充てたという。Mash up Awardの他の受賞者も同様な感想を述べている。

 マッシュアップの素材ともいえるWeb APIは、実に多様化している。Mash up Awardの事務局を担当するリクルートの八木一平氏は、「応募作品の傾向から、Web APIが多様化していることが見て取れる。実際、さまざまなAPIが利用されるようになってきた」と話す。文字と音声の変換や音声の自動認識、ネット経由でのコピー機の操作、時系列情報を年表形式で表示する「タイムライン」などだ。

 Web APIが増えると、開発者には新たな悩みが出てくる。多種多様なWeb APIの中から、いかに必要なものを見つけ出して組み合わせるかという、設計・検証作業に時間をとられるようになるのだ。

 マッシュアップを使ってシステムを開発する場合、従来の情報システム開発に比べて、企画や設計が重要になる。コーディングの時間は少なくて済む。Webサービスを呼び出すためのタグをAPIの仕様に沿って記述したり、場合によっては呼び出す先のWebサービスが自動生成したタグをコピーするだけでよいからだ。

 Web APIの種類が増えると「できの悪いAPIもたくさん出てくる」(ある受賞者)。マッシュアップによる情報システム開発がより普及し、高い品質のWebサービスをより容易に開発できるようにするためには、企画・設計作業を支援する仕組みやサービス、ツールが欠かせない。