2007年1月30日にWindows Vistaが店頭で発売されてから約8カ月が過ぎた。この記者の眼でも,4月24日に「Vistaってどうよ?」というややポジティブな見解が掲載された。これはこれで納得できる。「『売り上げは期待を下回るが私は強気』,マイクロソフトWindows本部長」というコメントもほぼ同時に報じられた。

 その後もマイクロソフトは,「Windows XPのPCメーカーへの出荷,来年1月で終了へ」と突っ張っていた。それが最近では「『Windows XPの販売を5カ月延長』,米マイクロソフトが方針転換」と来た。低価格パソコン向けに新興国で販売している「Windows XP Starter Edition」については,2010年6月30日まで販売を延長するという。Vistaはどうもハッピーな状況ではない。

 Vistaが好感を持たれない理由は,(1)価格が高い,(2)マイクロソフトの訴求するセールスポイントがユーザーの感覚とかけ離れている,(3)2001年にWindows XPが出て約6年が経過する間にハードウエア,ソフトウエア,使いこなしノウハウの資産が各所に大量に蓄積されて移行コストが上がった,などが考えられる。ただ,最大の理由は,Vistaが「遅い」ことではないだろうか。Vista搭載パソコンを新規に導入した人なら,おおむね性能に不満はないだろう。でも,新しいパソコンをポンと買える人がどのくらいいるだろうか?

機能削減でレスポンスを改善する

写真1●「コントロールパネル」→「システムとメンテナンス」→「システム」→「システムの保護」と進んで自動復元ポイントのチェックボックスを外す
写真1●「コントロールパネル」→「システムとメンテナンス」→「システム」→「システムの保護」と進んで自動復元ポイントのチェックボックスを外す
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写真2●「コントロールパネル」→「システムとメンテナンス」→「インデックスのオプション」→「変更」と進むと出てくる画面。Cドライブ全体のインデックス作成をやめた
写真2●「コントロールパネル」→「システムとメンテナンス」→「インデックスのオプション」→「変更」と進むと出てくる画面。Cドライブ全体のインデックス作成をやめた
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写真3●「コントロールパネル」→「セキュリティ」→「Windows Update」→「設定の変更」で出てくる画面。「更新プログラムを確認しない(推奨されません)」を選択した
写真3●「コントロールパネル」→「セキュリティ」→「Windows Update」→「設定の変更」で出てくる画面。「更新プログラムを確認しない(推奨されません)」を選択した
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 手持ちのパソコンにVistaをインストールして使い始めると,Vistaの遅さに悲しくなる。記者は会社でXPとVistaを1台ずつ,自宅でVistaを2台使っているが,特に自宅の居間に置いてあるノート・パソコンがひどい。2005年に購入したデルの「Inspiron 700m」というノート・パソコンで,Pentium M(1.6GHz),メモリー512MB,ハード・ディスク80GBという仕様だ。XPで使っている時は快適だったのだが,Vistaでは時々ハード・ディスクのアクセス・インジケーターが点灯しっぱなしになり,操作に対する反応を「じーっ」と数分間待つことになる。

 なぜVistaはこんなにも遅いのか。遅い遅いと文句を言いながらも使い続けるうちにだんだんわかってきた。Vistaでは,バックグラウンド(裏側)で色々なタスクが動いており,それらがハード・ディスクを使い始めると,フォアグラウンド(ユーザーが今操作している側)のタスクのレスポンスが極端に悪化するのだ。

 お金をかけずに対策をしようと,バックグラウンドのタスクを切って回った。まずは「システムのプロパティ」で「自動復元ポイントの作成」をやめた(写真1)。こうするとVistaの目玉機能の1つである「シャドウコピー」で過去のファイルを復元することができなくなるが,仕方ない。続いてインデックスの作成をスタートメニューだけにした(写真2)。こうすると,やはりVistaの目玉機能である「Windows検索」が骨抜きになってしまうが,これもあきらめる。

 Windowsを構成するファイルを更新する機能「Windows Update」はもはや欠かせない機能だが,自分が他の作業をしたい時に動かれると困るので,「更新プログラムを確認しない(推奨されません)」を選ぶ(写真3)。こうするとタスクバー右端に警告がうるさく出てくるので,「セキュリティセンターの警告方法の変更」という項目で,「通知は受け取らず,アイコンも非表示にします(推奨されません)」を選んでおく。

 ほんの少しの変更に思われるかもしれないが,これだけでVistaの動作速度はかなり改善される。自分が何か操作をした時だけハード・ディスクのアクセスが生じるようになり,ひどく待たされるという印象がなくなる。「タスクマネージャ」でCPUやメモリーの使用状況を見ても,余裕が感じられる。前述のノート・パソコンはメモリーが512MBだが,まあ何とか使える。

マルチコアを生かしたい気持ちはわかる

 Vistaの開発に携わった人たちがバックグラウンド・タスクを増やした狙いは理解できる。2001年に米Intelは「ハイパースレッディング」を発表し,物理的には一つのCPUでも,アプリケーション・ソフトからは2CPUに見えるようにして処理性能の向上を図った。2005年には一つのCPUパッケージに二つのCPUコアを搭載する「デュアルコア」CPUがパソコン向けに供給されるようになった。価格はまだ高いが,四つのCPUコアを搭載する「クアッドコア」CPUも登場してきている。「マルチコア」CPU(2個以上のコアを持つCPUの総称)が今後の主流になることは間違いないだろう。

 そこで困ったのがソフトウエア(プログラム)の開発者だ。プログラムは基本的に逐次処理(AをやってBをやってCをやる…)で記述する。逐次処理のプログラムでは,コアが増えてもそれを使いこなすことができない。並列処理を行うプログラムを書けばいいのだが,正しい結果が得られなかったり,処理時間が短くならなかったりといった問題が生じやすく,かなり難しい。

 そこで,逐次処理のプログラムを複数同時に動かせばマルチコアを無駄にしないで済むのではないかという発想が出てくる。Vistaではバックグラウンドのタスクが多いと書いた。フォアグラウンドのタスクだけでは今どきのマルチコアCPUを有効活用できないので,ユーザーのためになるバックグラウンドで動くプログラムを書こうと知恵を絞った結果が,Vistaなのだろうと思う。

でもディスクは1台しかない

 ただ,「ちょっと勘違いかなあ?」と思うのは,マルチコアになっても,多くのパソコンのハード・ディスク・ドライブは1台であるということだ。デュアルコアのパソコンでVistaを使っても,二つのコアを完全に使い切ってCPU使用率が100%になることはほとんどない。それより,ハード・ディスクの読み書きに時間がかかっているんだろうと思わせることの方がはるかに多い。

 もちろん,Vistaではハード・ディスクの読み書き性能を上げる工夫もなされている。メイン・メモリーの一部をディスク・アクセスの高速化に使う「キャッシュ・メモリー」は以前からあったし,Vistaでも積極的に使われている。Vistaではパソコンになるべく多くのメモリーを搭載した方がいいと言われるのは,キャッシュ・メモリーに余裕を持たせることで,ディスク・アクセスを少しでも速くしようという考えからだ。

 ただ,キャッシュ・メモリーを増やせばディスクがいくらでも速くなるかと言えばそんなことはない。キャッシュ上にないデータを読み出す場合はディスクを実際に読まなければならないし,書き込み指示があったデータは,多少の時間差はあったとしても,いつか必ずディスクに書き込まなければならない。

 記者が使っているVista搭載パソコンの1台は,CPUは米AMDのSempron 3000+(1.8GHz)と旧式だが,ハード・ディスクは1万5000回転/分,容量146GB,Ultra160 SCSI接続のものを積んでいる(一般的なパソコンが搭載しているハード・ディスクは5400または7200回転/分)。回転待ちの時間が短いことが効果的なのか,きびきび動く。高速なハード・ディスクが安価になったら,Vistaが喜ばれる日が来るかもしれない。

Vistaは導入すべきか?

 Vistaを導入するタイミングについて,少しだけ書いておきたい。正直なところ,Windows XPにあった「NWLink IPX/SPX/NetBIOS互換トランスポートプロトコル」がVistaに入っていないのはショックだ。これがないと,既存のNetWareサーバーに接続できない。Windows XPの関連ファイルをVistaに移植してNetWareサーバーに接続するという技もあるようだが,それならXPマシンを継続利用した方が安心だ。XPを使い続けたいと望む企業ユーザーがいるのは当たり前だ。

 OSをVistaへバージョンアップしたいと多くの人が考えるタイミングは,パソコンの搭載メモリー容量が4ギガバイトに達した時だろう。今のパソコンは1ギガ~2ギガバイトくらいが標準搭載量なので,4ギガバイトはそんなに先の話ではない。4ギガバイトのメモリーを生かすには64ビットのオペレーティング・システムが必要だ。その時主役になるのは,たぶんVistaの64ビット版だろう。

 そう考えると,32ビット版のVistaはスキップしてもいいかもしれない。コンピュータの世界で仕事をしている人は,将来に向けての投資という意味で,早めにVistaの64ビット版に触れてみるのがよいのではないだろうか。私もそうしたいと思っている。