プロジェクトマネジャを支えるもの

 プロジェクトマネジャはやりがいはあるが孤独な厳しい仕事である。プロジェクトチームの面々の報告を鵜呑みにするわけにはいかないから,非公式な報告の道筋を作ったり,現場を歩いたり,抜き取り検査をして品質を確認したり,あの手この手で現状を把握しようとする。その一方で,プロジェクトの発注者やオーナーに対し,分かりやすく状況を報告し,場合によってはプロジェクトの範囲の見直しを進言しなければならない。プロジェクトの範囲や方向性を変えることは価値創造の正否に関わるから,経営陣まで巻き込んだ議論に発展することもある。現場を掌握しつつ,経営の議論にまで参加するとなると,体がいくつあっても足りない。

 となると考えるべきは,プロジェクトマネジャをどう支えるか,という点に移る。「本来のPMO」はそういう役割をする所だが,前述のようにあまり機能していない。孤独なプロジェクトマネジャは,誰を頼ればいいのか。答えは,いきなり抽象的になってしまうが,そのプロジェクトを進めている組織であり,風土であると思う。

 すでに本記事で英語を濫用しているので,さらに英語を使わせていただくと「プロジェクト環境(エンバイロメント)」が整っているかどうかである。当たり前のことをくどくど書くようで恐縮だが,環境が整っており,プロジェクトが「できる組織」になっていれば,プロジェクトマネジャは難しい任務を遂行できるし,「できない組織」であれば,どれほど優秀なプロジェクトマネジャであっても「本来のPM」を遂行することはできない。

 例えば,長年取材をしていると「あの会社はプロジェクトができる」,「あの会社は必ず失敗する」という風評を聞く。ここで言う会社は,ユーザー企業のこともあるし,SI会社のこともある。システム開発に限らない,「新製品を定期的に出し,しかも必ず当てる会社」,「新しいことをやろうとするたびに紛糾する会社」という例もある。

「できる組織」の条件を考える

 つまり,考えるべきなのは「できる組織」の条件となる。海外のPM専門家は例によって,プロジェクト環境に関する体系的分析的議論を重ねているが,ここは日本であるので,日本語を使って考えてみたい。「できる組織」から筆者がぱっと思い浮かべるのは,以下のような組織である。

  • 風通しがよい
  • 人が出入りしやすい
  • 異分野の専門家がすぐ連携できる
  • 尖った人も地道な人もいられる(人の足をひっぱらない)
  • 意志決定者と現場の連絡が早くつく

 こう書くと,もはやPMの話と言うより,優れた企業の条件になってくる。しかも,実質的な権限を持った中堅社員が大部屋に集まって仕事をするという,古き良き日本企業の姿が浮かび上がる。強いとされる日本企業は長年の活動の結果として,「できる組織」になっているのだろう。幸いそうなっていたとしても,「できる組織」の仕組みをなんとか解明し,結果ではなく,意識的に「できる組織」を広げていけるようにする必要がある。それは,引き続き「できる組織」であり続けるためであり,さらに日本以外の国に「できる組織」を作るためである。不幸にして「できない組織」であった場合は当然,何らかの仕組みを導入し,「できる組織」を目指すことになる。

 果てしなく遠回りをして出発点に戻ってくるような原稿になってしまった。PMについて散々騒いだ当事者の一人として,プロジェクトマネジャを独りぼっちにしない「できる組織」,すなわち,PMを前向きな価値創造に結びつけられる「できる組織」の条件を引き続き考えたいと思っている。