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記者の眼

プロジェクトマネジャは独りぼっちじゃない

谷島 宣之=経営とITサイト編集長 2007/09/25 ITpro

 「確かにプロジェクトマネジメント(PM)を持ち上げる記事を沢山書きましたよ。PMって,前向きな話だと思っていたのですが…」。

 信頼がおける人,あるいは敬意を抱いている人から面と向かって,「あなたが悪い」「責任は重大だ」ときっぱり言われると正直な話,かなり落ち込む。こうした人には会わないようにすればいいのだが,色々と教えて欲しいことがあり,しばらくしてまたお目にかかると,同じ批判を繰り返される。

 何の話かと言うと,PMについてである。もう6年くらい前になろうか,日経コンピュータの副編集長をしていた時,PMについて特集記事をまとめたり,専門家に寄稿を頼んだり,ITproにコラムを書いたり,セミナーを主催したり,本を作ったり,と実に色々なことをした。そうした活動の集大成が日経コンピュータ2002年4月22日号に掲載した特集記事「プロジェクトマネジメントが日本を救う」であった。

 この雑誌が出版されてからしばらくして,PM関係者が集まる会合に出た時,出席者の方から「あの題名はいくら何でもやり過ぎ。誰があんな題名を付けたのですか」と尋ねられた。いささかむっとして「私です」と答えたが,5年後の今,4月22日号を探し出して表紙を眺めてみると,真っ赤な文字で「プロジェクトマネジメントが日本を救う」と大書してあり,確かに「なんと大仰な」という印象を受ける。

 表紙はともかく,懐かしいのでぱらぱらとめくってみると,PM特集のほか,特別レポートと題した都市銀行のシステム切り替え失敗記事,第3特集に別の都銀の移行プロジェクトの苦労話,「動かないコンピュータ」という連載欄に複写機メーカーのERPプロジェクト失敗事例,がそれぞれ掲載されており,コンピュータ雑誌というより,PM専門誌のようである。

 その後,筆者は日経コンピュータから離れ,日経ビズテックという新雑誌を作ってみたり,新しいWebサイトを開設してみたりと,良く言えば仕事の幅を広げたものの,その反面,PMの世界からやや遠ざかっていた。本題からすこしずれるが,新雑誌の開発プロジェクトに自分で取り組んでみて,よく分かったのは「プロジェクトは難しい」という,経験者なら誰でも知っていることであった。いや,経験者で無くても分かることだ。以前,インターネット上のディスカッションルームのような場所で「体系立てたPMをやれば,それでうまく行くという主張は現実離れしている」とご意見を頂戴したことがあったが,今思うと,ご指摘の通りであった。

「PMを実践して,それでどうしたと言うのか」

 ただし今回の本題は,頑張ってPMを実践できたとして,それでどうなのだ,ということである。「PMの普及の実態を見るとPMがかえって日本企業の足を引っ張っている」と主張する人がいる。冒頭に紹介した,筆者を悩ませる方々である。具体的にどのような批判を受けたか書いてみよう。PMに最も積極的であった外資系コンピュータ・メーカーのベテランSE(システムズ・エンジニア)はこう言った。

 「PM,PMと騒がれましたが,所詮は決められた期間と予算の範囲で人界戦術による開発作業を収束させる方法に過ぎません。確かにSI(システム・インテグレーション)は売り上げだけ見れば大きなビジネスに育ちましたが,その結果,お客様と一緒にビジネスに役立つシステムの絵を描くとか,夢に挑戦するといった仕事の比重が明らかに減りました。PMは,何千人ものSEを管理するためには有効ですが,本当に価値を創造しているのかどうか疑問です。お客様の担当者は将来の絵を描くより,とにかくプロジェクトを失敗しないことばかり考える。誰もが管理指向,問題摘発指向になっている。当社に大きな責任がありますが,PMを煽ったあなたにも大きな責任があります」。

 このメーカーはここ1,2年,しきりにイノベーションの重要性を唱えている。それについて異論はない。ただ,創造的活動とPMは矛盾しないと思っている。ピーター・ドラッカー氏が指摘するようにイノベーションは思いつきではなく,体系的活動によって生み出されるからだ。ドラッカーの威を借りて,このベテランに反論したところ,「理屈はそうかもしれないが,現実のPMやPMO(プロジェクトマネジメントオフィス)の動きはそうなっていない」と切り返された。確かに,SI事業を手掛ける企業のPMOは,現場がミスをしていないか監視したり,赤字になりそうな時には先手を打って値上げか開発範囲の変更を顧客に頼むように指示するなど,利益確保の番人と化している。

 イノベーションと言えば,筆者が関わった日経ビズテックという雑誌の主題がそれであった。この雑誌を作る際,製造業の技術マネジメントを支援するコンサルタントの方に会ったところ,彼からもPMへの疑問を呈された。本題が終わった後で雑談をしながら,筆者がプロジェクトマネジメント学会の会員だと言ったとき,そのコンサルタントは首をかしげてこう言った。

 「製造業におじゃますると,PMの重要性を語る方が増えているように思います。組み込みソフトを作るなど,今までと異質なものを作るにあたって,PMにしっかり取り組もうという主旨のようです。そうした話を聞くたびに疑問に思っていたのですが,PMって最重要事なんですかねえ。何を作るか,どんな価値を顧客に提供するのか,いわゆるコンセプト創造のほうがはるかに重要だと思うのですが。日本企業がまずチャレンジすべき点はこっちでしょう」。

PMBOKを学んだPMPはプロジェクトができるか

 さらにもう一人,筆者を戦犯呼ばわりした人を紹介する。この話は昨年,プロジェクトマネジメント学会誌に連載した「プロジェクトマネジメントの普及を阻むもの」というコラムの第4回に「知識体系と資格試験の功罪」と題して一度書いた。いささか長くなるが,当該部分を引用する。

 1年ほど前であったか,プロジェクトマネジメントのベテランコンサルタントから「谷島さんは,PMBOKへの過度な期待を生み出した戦犯」と言われたことがある。PMBOKを学び,PMPの資格をとることが,IT産業で流行した。その責任の一端が筆者にある,という苦言である。

 確かに,日本におけるPMP取得者はここ数年,急増した。PMP取得をうたった研修やセミナーは盛況である。5年くらい前,プロジェクトマネジメント関連書籍は数えるほどしか無かったが,今日では書店に専門コーナーができるほど沢山出版されている。大半は,IT関連のプロジェクトマネジメント本であり,実際,PMP取得者数の急増に貢献しているのはIT産業である。

 プロジェクトの失敗に悩むIT産業が,プロジェクトマネジメントを改めて勉強するのはよいことだが,識者の顔をしかめさせる事態が発生している。例えば,その企業の名誉のために匿名にするが,ある大手コンピュータ・メーカーの幹部から「PMPの取得を奨励しようと思っています。名刺にPMPと表記できれば(エンジニアの)単価を上げられますから」と言われたことがある。似たような考えから,PMBOKの勉強をさせているシステム開発企業もあるだろう。

 昔から,日本のIT産業は資格試験が好きであり,資格とエンジニアの報酬,そして単価を連動させることをやってきた。こうした日本の伝統があったが故に,知識体系PMBOKとその理解度を問う資格制度PMPを組み合わせて世界制覇を狙った米PMIの戦略が,日本においても成功したと言える。

 筆者に苦言を呈したコンサルタントは,製造業出身である。コンサルタントとして独立し,IT産業の面々と付き合った結果,安易にPMBOKやPMPへ飛びつく傾向を見て取った。この方は,「日本のIT業界に必要なのは,経営方針を決め,それを現場に浸透させて実行する,基本的なマネジメントの確立でしょう。プロジェクトマネジメントを云々する水準にまだ来ていません」と痛烈な批判を述べていた。

 戦犯と名指しされてしまったので,筆者はこのコンサルタントに次のように応答した。

  • 確かに,PMBOKのような知識体系を利用し,過去のプロジェクトから学んだことを整理,後続のプロジェクトに役立てるべき,と記事やコラムに何度も書いた。
  • このためPMBOKを理解してPMPを取得することを強調してしまったきらいはある。
  • ご指摘の通り,PMPを取得したからといってプロジェクトをうまくマネジメントできるとは限らない。
  • しかしPMBOKを知るのは悪いことではないし,必要であろう。
  • 戦いではないのだから,戦犯と呼ぶのは間違っている。

 読み直すと略語がやたらに多いので,英語とカタカナの羅列になるが付記しておく。PMIはプロジェクトマネジメント・インスティチュートの略で米国のPM推進団体,PMPはプロジェクトマネジメント・プロフェッショナルの略でPMIが認定する資格名称,PMBOKはプロジェクトマネジメント・ボディ・オブ・ナレッジの略でPMの知識体系全般,をそれぞれ意味する。ただし上記文のPMBOKはもう少し狭義で,PMIが出版している知識体系のガイドブックを指す。

 筆者を批判された方々の意見は,「PMで価値創造ができるのか」という問いに集約できる。「本来のPM」は価値創造のための手法と思うが,コスト管理や納期管理ばかりに力点が置かれるとあらぬ方向にプロジェクトが向かってしまいかねない。では「本来のPM」と「管理のPM」は,どこに差があるのだろうか。プロジェクトマネジャはその境目の所をうまく仕切ることができるのだろうか。

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