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ネットワーク

記者の眼

日経NETWORK

“ハレ”のトラブル,“ケ”のトラブル

2007/09/21
久保田 浩=日経NETWORK

 日経NETWORK10月号では,「トラブル解決への『最初の一手』」と題した特集を掲載している。毎年,日経NETWORKではネットワーク管理者へのアンケートを行っている。アンケートでは,自分が管理・使用しているネットワークで起こったトラブルの事例を具体的に挙げてもらい,どのようなトラブルをいかにして解決したのかについて回答してもらっている。今年のアンケートの回答数は約1200件。10月号ではその中から厳選した9つの事例を記事にしている。

 8月いっぱいをかけ,さまざまなネットワーク管理者の方にお会いして,トラブル事例を取材した。数百台のパソコンと企業向けネットワーク機器からなるネットワークを管理している方もいれば,数台のパソコンと家庭用のネットワーク機器だけで構成した小規模なネットワークを管理している方もいる。もちろん,自社のネットワークではなく,顧客のネットワーク管理を業務としている方もいた。

 ネットワークの規模やそのネットワークへの関わり方が異なれば,トラブル事例もさまざまである。だが,トラブル事例が異なる何人かのネットワーク管理者の方から,同じ内容の「逆質問」が私に向けて発せられたことは少々意外だった。

「あんな話でいいんですかね?」

 対象者への取材が終わり,帰り支度をしながらなごやかに雑談をしている最中というのは,案外貴重な情報が聞ける機会だ。取材の本筋とは離れて,その人の本音が聞けることもある。だが,私が担当した取材対象者であるネットワーク管理者の方のうち数人は,そのタイミングでこんなことを話しだした。

「さっきお話ししたトラブル事例,あんな話でいいんですかね?」

 私の取材がまずかったのだろうか。ちゃんと取材対象者から情報を聞き出せていないのでは,と一瞬凍りつく。だが,うろたえているのを相手に悟られてはならない。

「ありふれたトラブルなんで,正直,記者さんには面白くないんじゃないですか?」

 どうやら,彼らが遭遇したトラブルの内容が,記事にそぐわないのではないかと思っているらしい。

「ありふれたトラブルこそ,有益な情報なんです。ありふれているというのは,大勢の人が同じトラブルにあっているということです。それだけ読者に参考になる事例なんですよ」

 一瞬の狼狽の後に出た言葉だが,これは心底思っていることだ。特殊なトラブル事例は,多くの読者にはあまり意味をなさない。原因がわかってしまえば,「なーんだこんなことか」というありふれたトラブル事例のほうがためになることが多い。

「せっかく取材してもらったのに,このネタはボツになったりしませんかね」

 照れくさそうに笑う取材対象者の表情を見て,(たぶん)自分の取材能力を疑われたのではないことがわかった。彼らにとっては,日常の業務で起きたささいなトラブルを話したにすぎない。取材を受けてはみたものの,本当にこんな話が記事になるのだろうかと不安な気持ちになっていることが,その表情から見てとれた。

ありふれたことが,案外王道

 今回の取材対象者は奥ゆかしい方が多かったのか,こういう逆質問が何度かあり,その都度冷や汗をかいた。だが,のちのち思い返してみると,彼らの言葉にはネットワーク管理者の日々の気持ちが表されているように思えた。

 ネットワークはなにごともなく使えるのが普通。なにかトラブルがあればすぐに対処しなくてはならない。そういう意味でも,ネットワーク管理者は結構つらい仕事だ。とはいえ,彼ら管理者から見ると,だいたい同じようなトラブルが頻発していることも多いようだ。実際よくよく話を聞いてみると,取材したトラブルと同じような事例が過去に数回起こっているという方もいた。彼らの現場では,ありふれた日常の,ありふれたトラブルが繰り返されているのだ。

 その一方,ある取材先ではアンケートに書かれたトラブル事例をざっと喋ったあと,「それよりも,ほかのトラブルがあったんです。あれは困ったなあ」と嬉々として話し始める方もいた。その方が話したがっていたのは,LANスイッチを一気に大量購入したときにあった初期不良品についての話だった。だが,ネットワーク機器の大量購入なんて,そうそうめったにある話ではないだろう。

 言ってみれば,このLANスイッチの大量購入で起きた初期不良の事例は“ハレ”のトラブル事例だ。LANスイッチの大量購入などというちょっとしたお祭り状態のような非日常で起きたトラブルは,インパクトがある。私が根掘り葉掘り聞こうとしていたのは,言うなれば“ケ”のトラブル事例。普段の生活の中で起こった,どちらかと言うとあまりパッとしない事象だ。彼らにしてみれば,あまり面白みのない事例だったのだ。

 でも,改めて思う。ありふれたトラブルの解決法にこそ,案外トラブル解決の王道があったりする。ユニークな事例も大事だが,多くの人と共有できるフツーの事例を見つめることも重要ではないだろうか。それは,トラブルに限ったことではないかもしれない。

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