総務省の「モバイルビジネス研究会」は2007年8月29日,携帯電話事業者が採用しているビジネスモデルの見直しに関する報告書案について,事業者各社の意見を聴取した。研究会は6月26日に報告書案を公表し,6月29日から7月31日まで意見を募集していた。今回改めて意見陳述の場を設け,主張の整理を行った。

 同研究会は,日本と外国との携帯電話のビジネスモデルの違いを調査し,最終的に国内ユーザーの利便性を向上させることを目指している。そこで,報告書案では携帯電話業界に対して様々な提言を示したが,今回の意見聴取では携帯電話事業者が総務省の規制強化につながることを警戒している面ものぞかせた。総務省は今回出た意見を参考に,これから報告書の内容をまとめていく。実際のところ,携帯電話業界はどこまで変わることになるのだろうか。

総論賛成でも規制強化には難色示す通信事業者

 今回の報告書案では,(1)通信料金の引き下げを促すため,端末販売と通信料金を明確に分離したビジネスモデルを導入する,(2)MVNO(移動通信再販事業者)の新規参入を促すため,携帯電話事業者が接続料や回線の卸売り料金を明示して引き下げる,(3)携帯電話機の開発コストを削減し,事業者を問わずに同じアプリケーションソフトを使えるようにするため,端末プラットフォームを共通化する──といった方針が示されていた。

 現在の携帯電話のビジネスモデルでは,携帯電話事業者がメーカーから端末を買い取り,端末の販売奨励金を原資として1台当たり平均で4万円程度を割り引く形で販売店に提供している。その結果,販売店は安い端末を販売できるため,携帯電話サービスの普及に一役買ってきた。携帯電話事業者は販売奨励金を,ユーザーが毎月支払う通信料金に上乗せして回収している。今回の検討で問題とされたのは,端末を買い替える周期がユーザーによって異なるにもかかわらず,通信料金にはそれが反映されないため,端末を頻繁に買い替えるユーザーほど得になる点だった。

 そこで報告書案では,携帯電話事業者が販売奨励金を通信料金に転嫁せず,端末価格と通信料金を明確に分離した試験的な料金プラン(分離プラン)を2008年度までに用意することが望ましいとした。さらに2010年には,分離プランを全面的に導入する計画が盛り込まれた。これについてNTTドコモとソフトバンクモバイルは,行政が規制することには否定的な意見を示した。一方でKDDIは,「多様な選択肢を用意することが重要」とし,賛同する姿勢を示した。

 MVNOの新規参入促進策については,携帯電話事業者が端末の販売奨励金を端末販売関連収支ではなく電気通信事業収支として計上し,MVNOなどを対象とした接続料や回線の卸売り料金の原価としている点を問題視した。そこで報告書案では,販売奨励金を電気通信事業収支として計上できないように,電気通信事業会計規則を2007年度中に改正することが望ましいとした。これにより,接続料や卸売り料金の引き下げが期待できる。

 この考えについては,NTTドコモとKDDIが会計変更を最小限にとどめようとする意見を述べたのに対して,ほかの事業者は会計の透明性向上に理解を示した。また報告書案では,すべてのMVNOが公平な条件で移動通信回線を使えるように,卸売り料金の標準プランを作成することに期待するとした。これに対しては,大手の携帯電話事業者3社が慎重な姿勢を示した。

 このほか報告書案では,ユーザーが契約先を変更しても携帯電話機を使い続けられるようにSIMロックは解除するのが望ましいとしながらも,端末設備規則を改正する形で通信事業者に義務付けるかどうかは,2010年の時点で判断する方針を示していた。これについて,SIMロックを解除しても他事業者と通信方式の互換性がないため影響がほとんどないKDDIは,積極的な考えを示した。だが,W-CDMA方式を採用している事業者は,他事業者との競争激化を恐れて否定的な考えを示した。

モバイルビジネスのオープン化進展に効果

 ここまで報告書案の主な提言と携帯電話事業者の意見を紹介したが,これらのなかで最も事業者側の抵抗が少なそうなのが分離料金プランの導入である。もっとも分離プランの先駆けとも言える携帯電話機の割賦販売を導入しているソフトバンクモバイルでさえ,事業判断に対する行政の介入には反対の姿勢を取る。「あくまで事業者間の自由競争に委ねるべき」という考えである。

 一方でMVNOの新規参入促進策については,各事業者ともにMVNOとの交渉を進めており,携帯電話事業者がリーチできない市場を持つMVNOとの提携は実現しそうだと見る関係者もいる。ただし,携帯電話事業者にMVNOに対する設備提供を義務付けることは困難で,これから割り当てる2.5GHz帯の周波数を使うWiMAXサービスが初めて義務化の対象になりそうだ。

 このほかSIMロックについては,携帯電話機の機能が事業者ごとに異なる現状ではユーザーへのメリットがほとんどないという理由から,2010年に判断を先送りした格好になった。つまり当面はユーザーへの影響はなさそうだ。

 こうしてみると,研究会の報告書を基に総務省が新たな規制を打ち出せる余地はそれほど大きくはなさそうだ。ただし,今回の議論が業界やマスコミに浸透することによって,携帯電話事業者がサービス強化やビジネスモデルのオープン化について積極的に検討するようになる効果は期待できそうだと筆者は考える。それによって,携帯電話ユーザー向けの物販やコンテンツ販売,ソリューション提供,さらには放送事業者との連携など,多様なビジネスがこれから花開くことに期待したい。

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