「ライフハックス」という言葉をご存じだろうか。効率よく生活や仕事を進めるためのアイデアや技術を指すといえばいいだろうか。最近では共同作業を効率化する「チームハックス」という言葉も使われ始めた。ハックで共通するこの考えは,いわゆる2.0の技術を活用すれば企業全体にも適用できると記者は考える。

 今回はこのテーマで記者の眼を書いてみたい。関連してITpro読者の皆さんからのコメントも積極的にいただきたいと考えています。理由については記事の最後に示した通りである。

ちまたにあふれる「ハック」と「ハックス」

 効率化の手法として,ハックやハックスといった言葉をよく耳にするようになったのはここ1年ちょっとのことだろうか。原尻淳一氏と小山龍介氏による「IDEA HACKS! 今日スグ役立つ仕事のコツと習慣」や小山氏単独の「TIME HACKS! 」といった書籍が話題になっている。それから大橋悦夫氏と佐々木正悟氏による「スピードハックス」「チームハックス」などを読まれた方もいらっしゃるのではないか。ハックをテーマにしたWebサイトも増えている。

 仕事や生活の効率化を実現するためのノウハウ本はいくらでもあった。ハックをタイトルに付けたこれらの本が受けているのは,単に仕事の効率を上げるためのアイデアを紹介するだけでなく,楽しむ姿勢の大切さを前面に押し出していることだと思う。原尻・小山両氏が監修した「LifeHacks 楽しく効率よく仕事する術」に出てくる「サクサクと仕事を切り上げる」という一節が象徴的なものとして記者の印象に残った。

 楽しむことが重要だという点については,身近でも実例があった。記者の勤務する日経コンピュータ編集部の同僚にも実践者がいるのだ。いくつかのハックを実行した結果,めっきり机がきれいになったその同僚は「机がきれいになってやる気が向上したのはもちろんだが,どうすれば仕事の能率が上がるのかを考えることも楽しい」と話している。

 実はハックとITは相性がよい。目を通すと分かるのだが,これらの本の内容のそれなりの部分がITの活用を前提としたものになっている。

 楽しみながら仕事を片付けるのにITが役立つのである。会社に入って初めてパソコンに触って,慣れるだけで一苦労した記者からすると「世の中ここまで来たのか」と感じる。

楽しむから企業を活性化できる

 ハックは個人や共同作業の効率を上げるためのものだが,この考えは企業にとっても有用ではないだろうか。個々人やチームの業務効率が上がれば企業全体の生産性が向上するのは当然のことだ。

 実際に企業はこういった目的でもITを導入してきた。そもそもグループウエアは,非定型な業務の効率化や,基幹系システムでは記録するのが難しかった情報をデータベース化して,企業で働く人間の生産性を向上させることを目的とする。1990年代後半から2000年頃にかけては「ナレッジマネジメント」という言葉も流行した。

 だが,これらの取り組みが期待通りの成果を上げたとは言えない。しかめっつらで管理職が情報共有を上から推し進めても,社員が協力しなければ成果は出てこない。既存のグループウエアなどが上から計画して導入することが少なくなかったのに対して,ハックは現場で実際に働く人間の自発的な取り組みである。この点が重要なのだ。

 「業務効率の向上策を検討せよ」と上から命じられても,面食ったりするだけで,創造性を発揮できることは少ないかもしれない。だがほとんどの人間は,同じ作業なら少しでも効率良く済ませたいはずだ。悲劇の主人公を気取りたいのでもなければ,効率を考えずに徹夜を続けて,能率を下げてまで命じられた作業を終わらせたいなんて考えはしない。既存の情報化の手法よりも,ハックの考えが企業を改善させる可能性はここにある。

 「ITに対するリテラシーが低い」と情報システム部門が嘆いても結果は出てこない。ハックの考えや手法,ITを取り入れて企業全体の効率化に取り組むべきではないだろうか。

可視化のハックで共同作業をサクサク進める

 具体的にはハックは,どういったITで業務を効率化するのか。上記の書籍には以下のような手法が示されている。スケジュール管理にGoogleカレンダーを,情報収集・管理にRSSリーダーやブログを使う。共同作業の効率化のためには,無料のオンライン・オフィス・ソフトであるGoogle Docs & Spread Sheetsやコンテンツ管理のWikiを用いる,といった具合だ。

 「仕事のパフォーマンスを3倍に上げる技術」と副題に銘打った書籍「チームハックス」は,1つの章を割いて共同作業に役立つITツールを紹介している。具体的には,ソーシャル・ニュース・サイトのnewsing,無料IP電話ソフトのスカイプ,はてなのグループウエアであるはてなグループの効用などが示されている。

 ITが必須というわけではないが,トニー・ブザン氏が考案したマインドマッピングの手法を利用するハックもある。マインドマップ,マインドマッピングの詳細については,ブザン・ワールドワイド・ジャパンによる日本における公式サイトを参照されたい。

 これらのサービスに共通するのは,広い意味での可視化ではないだろうか。思いついたアイデアを後から確認できる形で残す,やるべき作業は何か,いつまでにやるべきか,どこまで終了したのかを簡単に分かるようにする。共同で作業するのであれば,文書化することで誤解や伝達し忘れを防いだり,進捗状況を共有したりする。ネットワークを経由して共同で文書を作成することも可能になる。

 ハックや可視化といったことを意識しているかどうかは別として,業務だけでなく私生活をサクサクと進めるため,これらのツールを活用している皆さんもいらっしゃるだろう。