必要な時に必要なものを必要な分だけ作る,JIT(ジャスト・イン・タイム)。筆者はここ数年,トヨタ生産方式の考え方に基づいて改革に取り組む企業を,数多く取材してきた。仕掛かり在庫が減るなど,生産面での効果を目の当たりにしてきたが,いつも気になっていたことがあった。製品が工場を出た後のことだ。せっかくの生産改革も,完成品が各地の倉庫に眠っているようでは全社的な改革の意義は薄れてしまう。

 今さら言うまでもなく,SCM(サプライチェーン・マネジメント)改革の目的は「全体最適」にある。生産や営業,物流など各部門が協力し合って,在庫削減や顧客リードタイム短縮(納期短縮)などをバランス良く実現していくものだ。これまで取材してきた中では,その優先順位を在庫削減に置く企業が多かった。その分,顧客から注文を受けて届けるまでのリードタイムの短縮は,どちらかと言えば後回しになりがちだったような気がしていた。

 そこで日経情報ストラテジー10月号では,この顧客リードタイムに焦点を当てた特集を組んだ。顧客リードタイムを短縮させるために,物流部門などが奮闘している企業のリポートだ。顧客の着荷希望日を起点に物流改革を進めたり,出荷トラックの出発時間に生産を合わせたりしている企業事例を紹介している。

「顧客リードタイム短縮」の推進を

 この特集の取材を通じて,SCM改革の一義的な目的が,なぜ顧客リードタイムに向かいづらいのかが何となく分かってきた。改革の成果が「金額」として見えづらいのだ。

 在庫削減が目的であれば,その成果は在庫金額や棚卸資産など数字になって表れやすい。物流費にしても倉庫代の削減などが進む。改革部隊としても効果を測定できる。改革の努力をしていることが自分たちでも実感できるし,経営層からも認めてもらえる。一方で,顧客に届けるまでの時間を短縮したことによる成果を金額でつかむのは簡単ではない。

 また,金額という成果を出すために,各部門は独自の目標を立ててSCMに取り組みがちだった。生産や営業は在庫金額の圧縮に取り組み,物流部門は運賃や倉庫代の削減を図ることばかりに目がいきがちだった。しかし,SCMの観点でいえば,一時的に在庫を増やしてでも輸送費を削減したほうが適切だったり,その逆の場合があったりもする。

 例えば海外へ商品を運ぶ場合,輸送費だけを考えれば航空機を使うよりも船のほうが安い。ただし,船便を利用すると,運搬中に寝かせてしまう在庫資金を考えなければならない。たとえ輸送費はかかってもいち早く届けてしまったほうが,少ない資金で事業を回せる場合もある。

 つまり,顧客リードタイムの短縮という観点でとらえていけば,従来よりもSCM改革が一層進むことが考えられる。ただし,各部門がばらばらの指標を使って(目標を立てて)取り組んでいる間は,それに気付きづらい。

理論と手法の確立が現場の知恵を引き出しやすくする

 ここでSCM改革の評価軸として,「時間」を取り入れる考え方が出始めている。トヨタ自動車で生産調査部長や物流管理部長を務めた経験を持つ,田中正知ものつくり大学名誉教授の「Jコスト論」はその1つだ。部品調達から販売会社に届けるまでの時間で必要な資金量を考える管理会計の手法である。

 現場にはリードタイム短縮に向けた知恵(アイデア)はたくさんあるはずだ。ただし,それを実現したとしても,金額という成果が見えなければ評価できないとなれば,現場の改革意欲は薄れてしまうだろう。「時間」を短縮すれば「金額」に結びつく,という理論と手法が確立していけば,現場は堂々と知恵を出して実現していける。

 また,生産や営業,物流の各部門が「時間」という共通の評価軸を持ってSCMに取り組めば,部門間の連携は一層進むようになり,企業競争力も高まるのは間違いないだろう。