TBSが通販事業の強化に注力している。同社は自社グループだけで「フルフィルメント」(受注・課金・配送といった通販ビジネスに関するすべての業務)に対応できるプラットフォームを構築するなど,かねてから通販ビジネスの推進に向けた取り組みを進めており,最近は携帯電話ユーザー向け通販サイトの使い勝手の向上に努めている。具体的には2007年3月に,携帯端末向け地上デジタル放送「ワンセグ」の通信販売番組とインターネットの連携を強化した。視聴者がワンセグのデータ放送画面を操作すれば,通販番組で紹介された商品をインターネット経由で購入できるようにしたのだ。

 それまでは通販番組の商品を購入するためには携帯電話機向けの通販サイト「TBSショッピング」に接続しなければならず,このサイトに接続するとワンセグ端末で視聴中の番組の映像が画面から消えてしまうという問題が発生していた。同社は,既存のモバイルサイトのコンテンツをワンセグのコンテンツとして変換できるゲートウエイサーバーを導入。TBSショッピングの商品情報をワンセグの番組の映像と同時に表示できるようにして,この問題を解決した。

新たな収益源の育成に励む民放事業者

 TBSが通販事業の強化に乗り出した背景には,民放事業者が放送事業収入を増やしにくくなったという事情がある。電通が2007年2月に発表した「2006年(平成18年)日本の広告費」によると,2006年におけるテレビ放送の広告市場は2兆161億円で,前年に比べて1.2%減った。無料で放送番組を視聴者に提供する民放事業者は売上高の大半を広告収入に依存しており,広告市場の縮小は大きな痛手である。

 このため民放事業者が好業績を達成するためには,通販事業や文化事業などによって獲得できる「放送外収入」を増やすことが不可欠になりつつある。これを裏付けるように,放送事業者の売上高に占める放送外収入の比率は序々に高まっている。例えばTBSの2007年3月期における放送外収入が連結売上高に占める割合は17.5%で,前年度に比べて2.3ポイント増えた。TBSの通販事業の強化は,放送外収入の増加によってさらなる事業規模の拡大を目指す同社の取り組みの一環だといえる。

テレビドラマなどでも商品を購入できるようにすることを検討

 TBSは,携帯電話機などのワンセグ端末の視聴者が番組の映像を消さずに通販サービスを利用できるようにした。このことからもうかがえるように,TBSは携帯電話機ユーザーから自社グループが提供する通販サービスの新規顧客を開拓しようと考えているようだ。このように携帯電話機向け通販ビジネスに注力するTBSであるが,これまでに放送事業者として培った番組制作のノウハウを活用すれば,さらなる事業拡大の道が開けるように思われる。

 もし仮にTBSがワンセグ放送の視聴に特化した番組を制作し,そこで通販サービスを利用できるようにすれば,このサービスの利用者数を底上げできるのではないだろうか。現在は,固定テレビ向けの放送と異なる番組をワンセグで流すことが制度的に認められていない。ただ2008年にも,民放事業者などはワンセグ放送で独自番組を提供できるようになる見通しである。ワンセグ端末は外出先でも番組を視聴できるという特徴があるため,据え置き型のテレビで通販サービスを利用する層以外から新規顧客を開拓できる可能性は大きいと筆者は考える。

 テレビ放送の広告市場が伸び悩む中で,民放事業者は放送外収入を増やし,堅調な業績を維持できる態勢を構築できるか――。TBSの取り組みの成否は,民放事業者がこの課題を克服できるかを占う試金石になりそうだ。

 なお携帯電話機を利用して自社が手がけるビジネスの規模を拡大しようとする動きは,放送業界だけにとどまらない。通信業界やインターネット関連業界など幅広い業界で見られる。これを受けて日経ニューメディアでは,「成長期に突入したモバイルビジネス」と題したセミナーを9月25日に開催することにした。携帯電話機ユーザー向けサービスの市場規模のさらなる拡大が見込まれる中で,どのような戦略にもとづいて商機を拡大するかといったことを様々な業界のキーパーソンに語ってもらう。興味のある方はぜひ足を運んでいただきたい。