どうして今,ソフトウエア開発のイベントをやるの?――。

 のっけから宣伝で恐縮だが,日経BP社は9月7日,東京ドームホテルで,ソフトウエア開発をテーマにしたイベント 「X-over Development Conference 2007,略称:XDev(クロスデブ)」を開催する。おかげさまで(これから申し込む方には残念かもしれないが),続々と満席になりつつある。

 このイベントの企画に私が携わるようになったのは今年の春。それまで,日経ソフトウエアの編集をしていた私は,どのような方向性でイベントを設計していくべきか,知り合いの開発者やユーザー,ベンダーに話を聞いてまわっていた。そこで質問されたのが冒頭の言葉である。

 質問そのものは単なる社交辞令で,特に深い意味はなかったのかもしれない。だが,私は質問されるたびに自問自答した。なぜ今,ソフトウエア開発のイベントをやるのか。やるべきなのか。そこに意味はあるのか。

「変える」チャンスだから

 私自身の,その質問に対する答えは,この春からずっと変わっていない。イベントを開催する理由――それは,今こそ日本のソフトウエア開発を「変える」チャンスだから――それにつきる。

 ここ数年,ソフトウエア開発の現場には,短納期,高品質,オフショア化といったさまざまなプレッシャーがある。ITとビジネスの関係は不可分になり,ビジネスの変化にアジャイルに(俊敏に)対応する必要もある。

 その一方で,Web 2.0,ソフトウエアのサービス化(SaaS),SOAといった新しい概念が次々と台頭してきている。オープンソース・ソフトウエア(OSS)やWeb APIの普及は,大規模な組織でなくても,少人数で開発が可能であることを証明しつつある。

 こういった一連の動きをどう見るだろう。既存のIT産業やビジネスの崩壊,危機と見るか。それとも,新たなビジネス・チャンスと見るか――私は後者の立場である。

 特に重要だと考えているのが「開発(Development)」という言葉だ。

 最近では,SaaSやOSSが普及していけば,システムを「つくる」より「つかう」ケースが増えていくという議論があるが,すべてのシステムがそうなるわけではない。コモディティ化したソフトウエアやサービスを利用するだけでは,他との差別化をはかることは難しくなる。ITのメリットを十分に生かした革新的なイノベーションを生むには,これまで以上に開発力が試される時代になっていくと考えたほうがいいだろう。

 今後は「開発」を,「ビジネスの視点と最新の技術によってイノベーションを起こす大きなプロセス」として再定義し,そのための新しい開発力を生み出す必要がある――それを広く呼びかけ,リアルに人と人が触れ合う場をつくり,ポジティブな未来を探りたい――それが今回のイベントの企画に携わった動機だ。

X-over思考が新しい開発力を生む

 イベントの名称にX-over(クロスオーバー)と付け,SOA,Web 2.0,設計,開発ツール,帳票/XML,組み込みソフト…など,複数のテーマを扱った総合カンファレンスにしたのもそれが理由だ。

 個別のテーマに特化していては,イノベーションを生み出すには限界がある。なぜなら新しい変化は,常にさまざまな文化,人間,技術の「クロス」すなわち「掛け算」から生まれてきたからだ。

 これからは開発者(デベロッパ)もシステムの発注者・利用者(ユーザー)も,X-over(クロスオーバー)思考を持ってITに取り組まねばならない。自分が携わる業務や技術を深く研究するだけでは不十分。さまざまな技術,プラットフォーム,事例,人間自身のことを学んで吸収し,自らをX-over(クロスオーバー)させていく必要がある。それが本イベントのメッセージである。

 実は,本イベントの略称「XDev(クロスデブ)」の「X」には,三つの意味がある。一つは今述べた,X-over(クロスオーバー)。二つ目は未来のビジネスやIT技術の総称「X」を「Development」するという意味。そして三つ目は,eXtreme(究極の)ビジネスや開発を目指してほしい,という意味の「X」だ。

 XDev(クロスデブ)が,究極を目指すきっかけになるかどうか――ぜひ9月7日,皆さん自身の目で確かめに来てほしい。