7月上旬,ITpro編集部は話題の携帯電話機「iPhone」を入手した。発売日に米国在住のジャーナリストの方に購入してもらい,レビュー記事を執筆いただいた後,編集部に送ってもらったものである。送付の際に,携帯電話事業者である米AT&Tとの契約は解約してもらった。解約すると緊急通話以外のすべての機能が使えなくなるとの噂もあったが,そのようなことはなかった。

 当初,編集部では「話題のiPhoneをいち早く使える。たとえ国内にGSM/EDGEネットワークがなくても,内蔵する無線LAN機能で音声通話とSMS以外の一通りのことができるはず」と浮き足立っていた。

 しかしよく考えると,iPhoneが「TELEC」(テレコムエンジニアリングセンター)や「JATE」(電気通信端末機器審査協会)の認可を受けたという話は聞こえてこない。また,iPhone関連のブログでは,「iPhoneの無線機能を日本国内で使うと電波法違反になる」と指摘する意見が散見された。そこで,総務省関東通信総合局に問い合わせたところ,「国内でiPhoneの無線機能を使った場合,電波法に抵触する可能性は否めない」との見解を頂いた。残念なことに,現状ではせっかくiPhoneを入手しても,国内では無線LAN経由のインターネット接続を利用できないのである。

 iPhoneは無線機能を一切使わなくても,デジタルカメラや高性能画像ビューア,そして大型画面のビデオiPodとして十分に活用できる。マルチタッチパネルを採用した革新的なユーザー・インタフェース(UI)は触っているだけでも楽しい(とはいえ,さすがに2週間ほどで飽きてきたが・・・)。だが,それでもやはり「Google Maps」や「Safari」「YouTube」などのアプリケーションを全く使えないのはあまりにも惜しい。何とか電波法に抵触せずにiPhoneの無線LANを使う方法はないものか,と考えた。

 そこで思い付いたのが「電波暗室」の利用である。電波暗室とは,電波を外に漏らさないシールド・ルーム。無線機器を開発するメーカーであれば,大抵備えている設備である。そして,電波暗室内であればiPhoneの無線LANを使ったとしても電波法違反にはならない。

 編集部では電波暗室の開発・販売を手がける新日本電波吸収体の協力を得て,7月下旬,同社の簡易電波暗室(写真1)内でiPhoneの無線LAN機能を使ってみた。

 電波暗室内での無線LAN環境を説明しよう。暗室内にインターネットにつながるLANケーブルを引き込み,ノートPCに接続。ノートPCにはUSBタイプの小型無線LANアクセスポイント(AP)を取り付け,LANとブリッジ接続する設定を施した(写真2)。これで,iPhoneはノートPCのAP経由でインターネットに接続可能だ。念のため,無線LANを使う前に暗室内の電波強度を測定したところ,見事に0デジベル(写真3)。携帯電話やPHSなど外界からの電波を完全にしゃ断している。これは裏返せば,iPhoneが発する電波も電波暗室の外には漏れないということを意味している。


写真1●新日本電波吸収体の簡易電波暗室 [画像のクリックで拡大表示]


写真2●電波暗室の中で無線LANの環境を構築
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写真3●W-ZERO3で動く電波強度測定ツールを利用。「0db」と表示されている。もちろん,PHSは圏外
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写真4●Google Mapsを利用

 準備が整ったところで,早速無線LANへの接続を試みた。最初に,iPhoneの「飛行機モード」を解除し,無線を使える状態にする。その後,設定画面で無線LANのAPを探すと,簡単に見つかった。あとは表示されたSSIDをタッチするだけでインターネットに接続できた。

 そして,待望のインターネット対応アプリケーションを使い始める。まずは何といってもGoogle Mapsである。起動すると,さっそく米国の地図が表示された。検索フォームに「Tokyo」と入力すれば,当然だが東京の地図も表示できる(写真4)。表示スピードは無線LAN経由なだけあって高速。画面を指でなぞると,スムーズにスクロールし,指で拡大縮小のジャスチャーをすると,Google Mapsもそれに合わせて拡大縮小する。この操作性には本当に感動した。iPhoneのUIとGoogle Mapsの親和性は極めて高く,米国にいればさぞや実用的だろうと感じた。

 Google Mapsのルート検索機能も使ってみたが,これも感動的だった。本当にキビキビと動作する。Google MapsほどiPhoneと相性の良いアプリケーションはほかにないのではないかと思えた。