SCM(サプライ・チェーン・マネージメント)といえば,「過去の実績や季節要因から需要を予測し,無駄な在庫を減らす」ためのもの。2000年前後にブームとなったSCMのこんな考え方が,今,どう変わってきているのかを調べるため,6月から取材を重ねてきた。グローバルな市場で世界を相手に競争を続ける製造業が主な対象だ。

 結果,多くのメーカーは,システムに頼った需要予測よりも,社内の専門家の力を結集することに重きを置いていることが分かってきた。専門家の力を引き出すには,正確なデータが必要になる。そのために各社が構築を進めている仕組みを「リアルタイムSCM」と名付けた。

 社内外から調達や生産,販売に関するデータを可能な限り迅速に集めるためのシステムだ。これが記者が執筆した日経コンピュータ8月6日号の特集「動き出したリアルタイムSCM」のメイン・テーマとなった。

富士フイルムはデジカメの在庫を3分の2に削減

 リアルタイムSCMの構築を急ぐメーカーの代表例が富士フイルムである。同社は,需要予測システムをうまく活用できなかったという苦い経験を持つ。需要予測は,基本的に対象製品の母数が大きくないと当たらない。例えば写真用フィルム(銀塩フィルム)の場合,製品全体の需要であれば,かなりの精度で予測できる。

 しかし「実際の需給調整では,ISO400の24枚撮りフィルムの販売本数といった詳細を知りたいのに,個々の商品だと母数が少なくて正確な予測が難しかった」(富士フイルムホールディングスの林成樹経営企画部IT企画グループグループ長)。

 この経験を基に富士フイルムが展開しているのが,販社や工場,本社など各部門向けの販売実績・予測データや,在庫回転率などを多面的に分析できるシステムである。

 生産や在庫の実績は,販社と工場の基幹システムから日次で取り出し,販売計画は月次を基本に販社の担当者から送らせる。シェア重視や利益重視といった経営判断を基に,集まったデータを分析し,日次で生産・在庫調整ができるようにした。

 05年11月にシステムが稼働した後,デジタル・カメラの担当事業部では,1年で成果が表れた。06年末ころに前年同月と比べた際,部品の余剰在庫が6分の1に,製品在庫が3分の2に減ったのである。同じシステムを,07年7月時点で全社14事業部のうちの7事業部にまで展開している。

小売業者には需要予測で成功する例も

 需要予測システムをうまく使いこなしている例もある。例えばカジュアル衣料専門店を展開するライトオンは,約3万点の商品のそれぞれに対して,需要予測や在庫消化率,利益額をシミュレーションし,適切な値下げのタイミングを決めている。その成果は03年からの増収増益という形で現れている。

 専門家の知恵を引き出すのがよいか,システムに任せるのがよいか。その分かれ目は単純に言えば,対象製品の数にあると記者は考えている。

 数万点から数十万点を扱うライトオンなどの小売業者の場合,人ではすべてを把握しきれない。システムの助けによって,全体の利益を底上げするのが効果的である。一方の製造業が扱う製品は1ケタも2ケタも少ない。それぞれの製品に営業やマーケティングの専門家が付いている。だから人の力で最適化できるのだ。

 「SCM改革に終わりはない」――。各社のSCM担当者は口をそろえて言う。SCMの次の一手を引き続き追いかけていきたい。