bit,C MAGAZINE,Computer Today,JAVA Developer,JavaWorld,PC Programming,Visual Basic Magazine(dotNET Magazine,Windows Developer Magazine),XML Magazine,日経バイト,マイコンBASICマガジン――。

 以上に挙げたのはどのようなリストなのか,ITproの読者の皆さんなら何となく想像がつくだろう。2001年以降に休刊した,主なプログラミング雑誌のリストである。まだ漏れが多いだろうし,bitや日経バイトなどはプログラミング雑誌ではない,と言われるかもしれない。それでも方向性は共通している部分が少なくないので,あえてここに含めた。

 上記のリストは,プログラミング雑誌が急速に減り続けているという事実を示している。もちろん,この期間には休刊と同時にいくつかのプログラミング雑誌が創刊されている。だが,現在の書店でのコンピュータ雑誌の棚を見ると,きっと皆さんの感覚に照らし合わせてみても,1990年代後半から2000年代前半に比べ,プログラミング雑誌が減っているのは明らかだろう。

競合相手は確かに減ったが…

 これは,筆者にとってゆゆしき事態である。筆者は1998年,日経ソフトウエアというプログラミング雑誌の創刊に立ち会った。その後,2001年3月までこの雑誌を担当してから,しばらく別の雑誌(日経コンピュータ)の編集部に所属し,2007年1月にまた日経ソフトウエアに戻った。この3月からは,この雑誌の編集長を務めている。

 6年前といまとで何が違うのか? 気が付く点はいろいろある。Visual Basic(VB)の存在感が薄まった(念のために付け加えておくと,だからといってVBユーザーが急激に減っているわけではない。単純に初心者向けプログラミング雑誌として,VBが必ずしも“一押し”の言語ではなくなったということである)。Javaが押しも押されもしないメジャーな言語になった。PerlやPHP,最近ならRubyのようなWeb系言語,というか軽量言語(LL)の存在感が増した。オープンソース・ソフトウエアがごく普通に使われるようになった…。

 だが,何より6年前との違いを感じるのは,競合誌(ライバル誌)が少なくなったことだ。1998年当時,日経ソフトウエアが最大の競合相手と見なしていたのは,Visual Basic Magazineである。その後,何回か誌名を変えたこの雑誌は,もう存在しない。同じように強力な競合誌であり,リスペクトの対象でもあったC MAGAZINEも休刊した。日経ソフトウエアにも数多くのOBが所属していた日経バイトも存在しない。Java雑誌としてそれなりに勢いがあったはずのJavaWorldも消えてしまった。

 いま,あえて競合雑誌を挙げるとするなら,Web+DB PRESS,DB Magazine,Software Designといったところだろう。各雑誌が日経ソフトウエアをどう見ているかは,よく知らない(これは編集長としては,あまりほめられたことではない)。

 だが個人的には,これらの雑誌は競合相手というより,同志だと勝手に思っている。もちろん,互いに部数を競い合っているわけだが,それ以上に筆者を含むプログラミング雑誌に携わっている人たち全体で,「プログラミング雑誌の価値とは何か」を改めて考え,具現化していかなければならないと感じているからだ。

 正直なところ,競合誌が減って「残存者利益」を得たという感覚はない。「何とか生き残った」というのが,正直な思いである。発行部数をみると,ピーク時には及ばないものの,プログラミング雑誌としてはまだそれなりに健闘していると自負している。それでも,弊誌を取り巻く状況の厳しさに,危機感は募る一方だ。

プログラミングの“楽しさ”は今も変わらない

 なぜ,プログラミング雑誌が次々と消えていくのか。理由としてまず思いつくのは,Webの台頭だろう。確かに,要因として決して小さくはない。弊誌も協力しているITpro Developmentをはじめとするソフトウエア技術者に特化したサイト,開発者コミュニティのサイト,個人サイト,さらにブログやメーリングリスト,SNSなどの手段を使えば,プログラミングに必要な情報の多くが無償で入手できる。弊誌のような初級者向けプログラミング雑誌であれ,中級者向け雑誌であれ,現在では例外なくWebの波にさらされている。

 しかし筆者は,プログラミング雑誌は今でも「料金を払ってでも得たい」と思う価値を提供できるはずだと強く思っている。もう一つ付け加えれば,Webは雑誌にとって敵にも味方にもなりうる。コンテンツの流用や共通化だけでなく,Webzineの考え方をリアルな紙の雑誌と連動させたりすることで,Webを雑誌の味方に付けるやり方があるような気がしている。

 その価値の中心を成すのは,「プログラミングの楽しさを伝える」ことだと考えている。どんな小さなプログラムであっても,実際に作って動くと単純に楽しいものだ。例えば,日経ソフトウエア8月号の特集「Ruby大作戦」では,記事査読のために「One-Click Ruby Installer」というRuby処理系を自分のマシンにインストールして使ってみた。ずいぶん前にN88-BASICを使っていたころの,ごく素朴なプログラミングの喜びを思い出し,とても楽しい作業だった。

 つい最近は,やはり記事査読のために,SaaS(Software as a Service)ベンダーのセールスフォース・ドットコムが提供するプログラミング環境「Apexコード」を試してみた。ブラウザ上で簡単にサーバー・プログラムを作成し,実際に動かすことができる。大げさな言い方かもしれないが,それだけで小さな感動がわき上がってくる(Apexコードの記事は,8月24日発行予定の弊誌10月号に掲載される予定なので,ぜひご覧いただきたい)。

 いま企業システムは,ひたすら“厚化粧”の方向に向かっている。SOA(サービス指向アーキテクチャ),SaaSなどはいずれも「できるだけソフトウエアを作らない」「実装を意識しない」方向を目指している。しかし,どれだけ化粧を施しても,コンピュータのアーキテクチャが変わらない以上,サービスの基になっているのはプログラムであり,サービスを扱う以上はプログラミングの知識がやはり必要になる。ある大手ベンダーの担当者は,「実装のイメージを持たずにSOAに手を出そうとするのはとても危険だ」と話す。

 プログラミングをはじめとするソフトウエアの技術をわかりやすく,ていねいに伝える。プログラムを作り,それが動き,さらにほかの人に役に立つときのワクワクぶりを実感してもらう――。Webよりも雑誌のほうが,まだこうしたことができる力は大きいと,筆者は確信している。今後の日経ソフトウエアでは,「ソフトウエア作りの楽しさとソフトウエア技術のいまをわかりやすく伝える」をテーマに,これまでとはやや切り口が違うトピックも盛り込みつつ,雑誌ならではの価値をもっと追求していきたいと考えている。

 たとえプログラミング雑誌にとって厳しい時代であっても,将来を決して悲観してはいない。よい記事を作っていけば,きっと支持していただけるはずだと思っている。ぜひ,今後の日経ソフトウエアに期待してほしい。皆さんからの,弊誌に対する忌憚のない「賛」「否」両方のご意見をお待ちしています。