800クライアント以上に導入したERPがオープンソースに
ビーアールホールディングス グループが開発,オープンソース化する予定のERP [画像のクリックで拡大表示] |
Compiereのような海外発のものだけではなく,日本発のオープンソースERPもまもなく登場する。ビーアールホールディングスが,極東工業などグループ会社で800クライアント以上に展開するWebベースの基幹システムである。同システムの基本部分はIPA(独立行政法人情報処理推進機構)の「オープンソースソフトウェア活用基盤整備事業」として開発されており,2007年の秋にも勤怠管理,給与管理,財務管理,業績管理,固定資産管理機能をオープンソース・ソフトウエアとして公開する予定だ。
開発したのはビーアールホールディングスの情報システム子会社であるKN情報システム。ビーアールホールディングスは橋梁工事を得意とする極東工業などを束ねる持ち株会社である。KN情報システムは極東工業の情報システム部門が前身だ。
データベースはPostgreSQL,アプリケーション・サーバーはTomcat,サーバーOSはLinuxである。DIコンテナとしてSpring,O/Rマッピング・ツールにHibernate,帳票ツールにJasperReportsを採用。プレゼンテーション・レイヤーはJavaServerFacesである。開発環境はEclipse,ExadelStudioおよびExadelStudioPro。このように,全面的にオープンソース・ソフトウエアを採用している。
KN情報システムのメンバーは,1994年に極東工業の全社システムをクライアント/サーバー・システムで構築,2000年にはJavaによるWebシステムで再構築するなど,オープン系の技術を基幹システムに適用してきた実績を持つ。今後,オープンソース化したERPシステムの導入支援やカスタマイズをビジネスとして提供していく計画だ。
KN情報システム代表取締役社長の中村一孝氏は,オープンソース・ソフトウエアによる地域振興を目指す団体「ひろしまオープンソフトウエアコンソーシアム」の会長も務めており「地元のIT企業など他の企業や団体と協力してオープンソースERPシステムの普及や品質向上を目指す」(中村氏)と意気込む。
日本人がCTOを務めるフランスNexediのERP5
フランスNexediが開発しオープンソースとして公開しているERP5。日本語も使用できる。画面はERP5に日本語データを入力しOpenOffice.orgにレポートを出力している [画像のクリックで拡大表示] |
NexedeiのCTOは日本人で,日本技術者が開発に参加している。中央がかずひこ氏 [画像のクリックで拡大表示] |
フランス発のオープンソースERPもある。「ERP5」である。実は,ERP5を開発している仏NexediのCTOは日本人が務めている。Linuxの標準的なブートローダー(OSを起動するプログラム)となっているGNU GRUBの開発者としても知られる奥地秀則氏である。
ERP5は人事管理,会計管理,生産管理,顧客管理(CRM),コンテンツ管理(CMS),オンライン取引 (販売,購買)モジュールからなるWebベースのERPで,フランスの水着メーカーCoramy,ドイツの偵察衛星TerraSAR-Xの撮影画像を提供しているInfoterra,フランスの水道局,中央銀行,病院,セネガル共和国,Sevran市役所で導入されているという。
オブジェクト指向スクリプト言語Pythonによるアプリケーション・サーバーZope,データベースはMySQLと,こちらも全面的にオープンソースのミドルウエア上に構築されている。
奥地氏は2003年にNexediに加わった。「たまたま自分が創業者のJean-Paul Smetsが探している人材像に適合していた。彼が探していたのはOS,PythonやRubyのような動的なオブジェクト指向プログラミング, 数学に強く,ソフトウエアの自由に強い関心を抱いている人材だった」と,奥地氏は振り返る。創業当時NexediはERPのほか組込みシステム開発も手がけており,GNU GRUBの作者である奥地氏はうってつけだった。そして「Nexediの目的は、ベンダーに縛られないソフトウエアの利用を推進すること。ソフトウエアの自由に対する関心は非常に重要だった」(奥地氏)。
2006年には奥地氏に加え,RubyによるWeb家計簿「ももんが家計簿」の作者かずひこ氏がNexediに入社。ERPの日本での導入例はまだないと見られるが「日本語データは問題なく扱え,全文検索も可能」(かずひこ氏)という。
世界中に多くのオープンソースERP
巧の助太刀会計オープンソース版 [画像のクリックで拡大表示] |
そのほかにも,日本語化の動きはまだないが,Ajaxを使用したWebクライアントを備えるTiny ERPやApacheの業務アプリケーション向けフレームワークOFbiz(関連記事)をベースにしたopentapやNeogia,Fisterraなど,世界中で多くのオープンソースERPの開発が進められている。
ERPではなく会計システム単体だが,約200社が導入したWeb会計システムをオープンソース化したものもある。巧の「助太刀会計 オープンソース版」である。商用版との違いは,オープンソース版にはユーザー登録やログイン機能、アクセス件管理機能がないこと。それ以外の機能はすべて商用版と同じである(関連記事)。
業務アプリこそソースコード公開の意味は大きい
このように多くのオープンソースERPが開発され,ユーザーも増えている。とはいえ,ERPのユーザー全体から見ればオープンソースERPのユーザーはまだまだ少数派だ。
冒頭で見た日恵装飾がそうであったように,ユーザーは業務システムをオープンソースかどうかで選択することはない。ユーザーが求めるのはあくまで機能とコストである。機能について言えば,一般的には競争を勝ち抜き改良が積み重ねられてきた商用ERPに一日の長がある。
しかし,同じく日恵装飾の例で見たようにソースコードが公開されているオープンソース・ソフトウエアは、ユーザーの要望に合わせていくらでもカスタマイズできる。CやC++でLinuxをカスタマイズするのに比べれば,JavaやPHPでアプリケーションをカスタマイズするハードルは低い。ソースコードが公開されていることの恩恵は大きい。オープンソースのERPが企業情報システムの重要な選択肢となる可能性は高い。
オープンソースERPの例
名称 | URL |
---|---|
Compiere 日本版 | http://www.compiere-japan.com/ |
ERP5 | http://www.erp5.org/ |
Tiny ERP | http://www.tinyerp.org/ |
opentaps | http://www.opentaps.org/index.php |
Neogia | http://www.neogia.org/Welcome |
Fisterra | http://community.igalia.com/twiki/bin/view/Fisterra |
助太刀会計 オープンソース版(会計のみ) | http://www.sukedachi.org/ |